【ジャズ喫茶のジャズ発売イヴェント】

 

 

「四谷いーぐるが選ぶ『ジャズ喫茶のジャズ』」発売イヴェントご来会のみなさま、ありがとうございました。おかげさまでCDの即売も30枚以上という想定を大幅に上回る売り上げを記録しました。お買い上げのみなさまにこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 

当日は聞き上手村井康司さんの名司会、DJ大塚広子さんの興味深いDJ内幕話などで会場は大いに盛り上がり、また、初めての試みとしてYou Tube Liveによる生中継を池上信次さんにお願いし、多くの方々にご視聴いただきました。

 

私も小学館さんとのムック企画はじめ、長年いろいろなお仕事をさせていただいてきましたが、今回の新星堂さんとのコラボ企画、ほんとうに楽しくやらせていただいております。何というんでしょうか、「ジャズ喫茶が選ぶジャズ」ということは、私が日々「いーぐる」のレコード係としてやっていることをそのまま凝縮する作業なので、大いにやりがいがあるのですね。以下、イヴェントで私が話したことを大塚さんの体験談なども交え、お伝えしてみます。

 

ツイッター上で「ジャズ喫茶案内」という素敵な記事を日々アップされているJAZZ CITYの楠瀬克昌さんが見事に洞察されたように、今回のジャズ喫茶コンピは拙著『ジャズ選曲指南』~秘伝アルバム4枚セット聴き~(彩流社刊)が下敷きになっております。この本は、ジャズ喫茶のレコード係はかける楽曲・長さこそ異なれど、要はDJさんがやっておられることと同じであるという主旨を実例を挙げて具体的に解説した本で、一部の熱狂的ファンに支持されつつも、あまりにもマニアックな内容だったためかあまり売れず、すぐに絶版となってしまった幻本です。

 

こうしたいきさつがありつつも今回の新星堂さんのお話しに大いに乗り気になったのは、昨年12月このブログの【Bar stereo, Baker’s Mood + DJ大塚】に書いたように、大塚さんの見事なジャズ選曲術に刺激され、「私もあんなことやってみたい」と思ったことが大きいのです。

 

しかしながら日々店でパスタを茹でつつ1曲ごとにトラックを繋ぐなどということは物理的に不可能だと諦めていたところ、新星堂さんからジャズ喫茶発のコンピレーションを作ってみないかというお話は、まさに渡りに船だったのですね。

 

こうした内幕を大塚さんにお話ししたところ、大塚さんがクラブDJの仕事ぶりをリアルに語ってくれました。それは「場」の雰囲気を掴みつつ、お客様をうまく乗せる高等選曲術で、ある種の「直感」で瞬間的に次のトラックを決めているとのこと、これはジャズ喫茶のレコード係もまったく同じなのですね。こうした背景があるので私はDJさんに対して同業者意識を持っていると同時に、大塚さんのような優れたDJに対するリスペクトがあるのです。

 

大塚さんからの私への質問で興味深かったのは、私が「トラックの繋ぎ目が心地よい」と発言したのに対し、「前曲がよく聴こえるのか、それとも次のトラックがよく聴こえるのか」という実に実践的で本質的な質問でした。

 

実を言うと今までそんなことは考えたことが無かったのですが、じっくりと思い返してみれば、「楽曲が切り替わること自体」が心地良いのですね。つまり前曲が後味よく終わると同時に、後曲はよりキャッチーに聴こえる繋ぎが〇なわけです。つまりどんな「繋ぎ」でも曲が変われば良いということでは無く、「前後の曲想」次第で良くも聴こえ、あるいはしらけたりもするということなのです。

 

結局これは「前後の関係によって生まれる快感(あるいはしらけ感)」としか言いようがありません。優れたDJ、ジャズ喫茶レコード係は日々の積み重ねからこうした「体験的事実」を掴んでいるので、「評論家」のように音楽を「単体」で評価することは無いのです。

 

とは言え、私たちが音楽の「単体評価」極論すれば「絶対評価」を無視しているということではありません。「相対評価」あるいは「関係性の魅力」は「単体の性格・内容」に対するしっかりとした理解・把握が無ければ出来ないのですね。

 

例えば、「緊張感のあるトラックの後には弛緩した楽曲が良い」と言っても、楽曲の「緊張:弛緩」自体をちゃんと把握できていなければセレクトの仕様がありません。具体的に言えば、その人の頭の中の引き出しに「緊張トラック」「弛緩トラック」のサンプルがどれだけあるか、が、DJさん、ジャズ喫茶レコード係の力量を決めているのですね。

 

もちろんそうした「曲想カテゴリー」は「緊張:弛緩」だけではなく、たとえば「黒っぽさ:白っぽさ」あるいは「グルーヴ感のあるトラック」「クールなサウンド」などなど、実にたくさんあるわけです。

 

ふつうの音楽ファンは音楽を聴くときにいちちこんなことを考える必要は無いのですが、しかし無意識のレベルでは「心地よい繋ぎ=気分の変化」を求めてはいるはずのです。いくらお気に入りアルバムでも、CD1枚40分以上同じミュージシャンの演奏では、内心「飽き」が来ているのではないでしょうか。しかし、たとえば自宅でパソコン作業をしているときのB.G.M.用CDをいちいち「心地よい繋ぎ」に仕立てるなどというメンドウは出来るはずもありません。

 

私が今回狙ったのは、そうした音楽ファンの潜在需要に応えられる「実用型ジャズ・コンピ」なのです。ですから、お買い上げいただいたら気負わず日々のB.G.M.として生活空間の中で楽しんでいただけたらと願っております。というのも、「ジャズ」はそうした聴き方であってもなかなか「消費」されはしない、意外としぶとい音楽ジャンルであることを、長年の実感として信じているからなのです。

 

付け加えれば、気軽なジャズ入門編としてご購入された方々も、このシリーズを聴き続けているうち、知らぬ間にジャズの深みに嵌り込んでしまう「仕掛け」も仕組んでいるつもりなのですね。

 

「四谷いーぐるが選ぶ『ジャズ喫茶のジャズ』」シリーズ2回目のタイトルは、「これがジャズ喫茶のジャズだ」という極めてダイレクトなもので、内容は第1回のスタイルを踏襲しつつ、登場ミュージシャンはよりディープな「ジャズ喫茶常連ジャズマン」に絞った若干マニアックな仕様となっております。ご期待ください!

【いーぐる 連続講演】

いーぐるでは、音楽界のさまざまな分野で活動されている方々をお招きし、ジャズをはじめ幅広いジャンルの音楽に親しんでいただくための連続講演を行っています。予約の必要はありません。終了は午後6時30分頃です。

 

 

  • 第687回 12月11日(土曜日)午後3時30分より 参加費無料 飲食代金のみ

 

『四谷いーぐるが選ぶ“ジャズ喫茶のジャズ”』発売記念イベント

   ~新星堂とのコラボ企画による、初のジャズ喫茶発コンピレーション・シリーズ~

 

「いーぐる」店主後藤雅洋が半世紀を超えるジャズ喫茶レコード係の経験を活かし、あなたのリスニング・ルームをジャズ喫茶に変える、初の“ジャズ喫茶コンピCD”発売記念イヴェントです。

 

シリーズ第1巻『ジャズ喫茶が選ぶジャズ・ジャイアンツの名演』では、マイルス、コルトレーンエヴァンスといった”ジャズ・ジャイアンツ”を、ジャズ喫茶ではどう料理しているかというテーマで、いーぐるならではのビッグ・ネーム選曲をお楽しみいただきます。

 

当日は私がこの企画をはじめるきっかけとなったDJ 大塚さんをお招きし、ジャズ喫茶レコード係とDJは実は同じことをやっているのだというお話など、「ジャズの新たな楽しみ方」についてざっくばらんに語り合います。

また、CD即売会も行い、お買い上げのみなさま全員に私が監修したCD付きクリスマス・ムックをプレゼントいたします。ぜひお気軽にご参加ください。

 

司会 村井康司  出演 DJ 大塚広子 × 後藤雅洋

 

 

  • 第688回 12月25日(土曜日)午後3時30分より 参加費500円+飲食代金

 

店主はじめ音楽関係者有志による2021年ベスト盤紹介イヴェントです。コロナ禍にもかかわらず、世界のミュージシャンたちはそれぞれの音楽世界を深めて行った状況が一覧できる楽しいイヴェントです。ぜひお気軽にご参加ください。

 

参加者 店主ほか、音楽関係者一同

 

 

いーぐる  新宿区四谷1-8ホリナカビルB1F  3357-9857

【いーぐるホームページ】           http://www.jazz-eagle.com/

【いーぐる後藤の新ジャズ日記】     http://d.hatena.ne.jp/eaglegoto/

                                               【いーぐる 連続講演】

 

いーぐるでは、音楽界のさまざまな分野で活動されている方々をお招きし、ジャズをはじめ幅広いジャンルの音楽に親しんでいただくための連続講演を行っています。予約の必要はありません。終了は午後6時30分頃です。

 

  • 第686回 9月25日(土曜日)午後3時30分より 参加費1500円+飲食代

『「最高の音」を探して  ロン・カーターのジャズと人生』発刊記念イベント

 「音でたどるロン・カーターの半生」

 

この度刊行されたロン・カーターの伝記『「最高の音」を探して  ロン・カーターのジャズと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)の発刊を記念して、同書の編集者である池上信次、解説とインタビューを担当した村井康司、そして同書の翻訳者の丸山京子(リモート出演)が、膨大な中から厳選したロン・カーターの演奏をおかけしつつ、本書の内容を語ります。

当日は新著の販売も行います。

 

出演:池上信次(書籍編集者)村井康司(音楽評論家)丸山京子(通訳・翻訳者)*リモート出演

 

 

【いーぐる 連続講演】

 

いーぐるでは、音楽界のさまざまな分野で活動されている方々をお招きし、ジャズをはじめ幅広いジャンルの音楽に親しんでいただくための連続講演を行っています。予約の必要はありません。終了は午後6時30分頃です。

 

  • 第685回 9月11日(土曜日)午後3時30分より

参加費1500円+飲食代

 

「『音楽の黙示録』を読む」

~クラシックとジャズの対話~

 

このたび、アルテスパブリッシングより、作曲家、森本恭正氏とジャズ・ピアニスト、南博氏による極めてスリリングな対話編『音楽の黙示録』が出版されました。新著刊行を記念し、音楽をとりまくさまざまな権威から自由になるための朗読と座談の会を開催いたします。

当日は新著の即売会も行います。

 

登壇者 森本恭正 × 南博

 

いーぐる  新宿区四谷1-8ホリナカビルB1F  3357-9857

【いーぐるホームページ】           http://www.jazz-eagle.com/

【いーぐる後藤の新ジャズ日記】     http://d.hatena.ne.jp/eaglegoto/

 

【いーぐる 連続講演】

いーぐるでは、音楽界のさまざまな分野で活動されている方々をお招きし、実際に音源を聴きながら、ジャズをはじめ幅広いジャンルの音楽に親しんでいただくための連続講演を行っています。終了は午後6時30分頃です。

  • 第684回 7月24日(土曜日)午後3時30分より

参加費1500円+飲食代

いーぐるトークセッション特別編

「シングルレイヤーSACDで聴くECMの名盤」+α

6月23日に初の「シングルレイヤーSACD」仕様で発売されたECMレーベルのアルバム9作品、そして同時発売されたジャズの名盤3タイトル、合計12タイトルを、いーぐるのオーディオ装置で堪能しましょう!

 

*紹介する作品:

ザ・ケルン・コンサート/キース・ジャレット(N) スタンダーズ Vol.1/キース・ジャレット・トリオ(M)

スタンダーズ Vol.2/キース・ジャレット・トリオ(M) リターン・トゥ・フォーエヴァーチック・コリア(N) クリスタル・サイレンス/チック・コリア&ゲイリー・バートン(N) ブライト・サイズ・ライフ/パット・メセニー(N)想い出のサン・ロレンツォ/パット・メセニー・グループ(M) オフランプ/パット・メセニー・グループ(M) トラヴェルズ/パット・メセニー・グループ(M)

ゲッツ=ジルベルト/スタン・ゲッツジョアン・ジルベルト バラード/ジョン・コルトレーン  ウィ・ゲット・リクエスト/オスカー・ピーターソン

 

出演はECM9タイトルのライナーを執筆した柳樂光隆(N)と村井康司(M)、そしてDSDマスタリングの監修をされたオーディオ評論家の和田博巳氏をゲストに迎えます。

 

協賛:ユニバーサルミュージック合同会社

 

*20名様限定・完全予約制です。

予約は下記のアドレス、またはお電話にて受け付けております。定員20名で、満席になり次第予約を打ち切らせていただきます。お電話は平日14:00以降受け付けております。

 

メール予約 jazz.kissa.eagle@gmail.com   電話予約 03-3357-9857 (平日14:00以降)

 

   『レコード特集』『推薦盤特集』『いーぐる連続講演』の記録

 

 

現在コロナのため中断しておりますが、「いーぐる」では1994年から『いーぐる連続特集』というタイトルで音楽関係者の方々に講演をお願いしており、通算682回を数えております。

 

また、それ以前の1978年から1980年にかけ、いーぐるのスタッフによる『レコード特集』を行っており、同じくスタッフにより1980年から1981年にかけ、『推薦盤特集』を行いました。

 

これらの記録を現在「いーぐる」にて公開しておりますので、関心のある方はご来店の上ご一読ください。

 

現在各イヴェントのタイトル・日時を整理しておりますが、今回『レコード特集』と『推薦盤特集』の内容をお知らせいたします。『いーぐる連続特集』については出来上がり次第公開する予定です。

 

 

         《いーぐるレコード特集》

 

1978   11.30

優秀レコード'78 #1

1978   12.14

優秀レコード'78 #2

1979   01.11

R.Beirach

1979   01.25

秋吉敏子

1979   02.04

A.Pepper

1979   02.22

ギター特集

1979   03.08

A.Shepp

1979   03.22

C.Mingus

1979   04.05

C.Brown

1979   04.19

C. Corea

1979   05.04

70年代のトランぺッター

1979   05.17

Be Bop Pianist

1979   05.31

T.Jones, M.Lewis

1979   06.14

モダンジャズの巨人とその名演

1979   07.01

J.Griffin

1979   07.15

W.Shorter

1979   07.29

B.Evans

1979   08.12

A.Blakey

1979   08.26

ヴァイヴ特集

1979   09.09

フルート特集

1979   09.23

W.Kelly

1979   10.07

Weather Report

1979   10.21

K.Jarrett

1979   11.04

Sonny Rollins Vol.1

1979   11.18

Sonny Rollins Vol.2

1979   12.02

79優秀レコード その1

1979   12.16

79優秀レコード その2

1979   12.31

黒人対白人名演集

1980   01.13

70年代をふり返って Vol.1

1980   01.27

70年代をふり返って Vol.2

1980   02.10

ボーカル特集

1980   02.24

ハードバップ・ピアニスト

1980   03.09

レーベル別特集 Contemporary編

1980   03.23

D.Brand

1980   04.06

Lennie Tristano とその周辺

 

 

 

              《いーぐる推薦盤特集》

 

    第1回

1980   10.12

M.Davis Vol.1

    第2回

1980   10.26

M.Davis Vol.2

    第3回

1980   11.09

J.Coltrane Vol.1

    第4回

1980   11.23

J.Coltrane Vol.2

    第5回

1980   12.07

C.Parker

    第6回

1980   12.21

B.Powell

    第7回

1981   01.11

B.Evans

    第8回

1981   01.25

E.Dolphy

    第9回

1981   02.08

Vocal

    第10回

1981   02.22

K.Jarrett

    第11回

1981   03.08

S.Rollins

    第12回

1981   03.22

トロンボーン

    第13回

1981   04.05

パウエル派ピアノトリオ

    第14回

1981   04.19

C.Corea

    第15回

1981   05.03

ハードバップのかくれた名演

    第16回

1981   05.17

A.Pepper

    第17回

1981   05.31

“前衛”の古典

    第18回

1981   06.14

T.Monk

 

 

【Bar stereo, Baker’s Mood + DJ大塚】

 

12月12日土曜日、高田馬場のBar stereoにBaker’s Mood + DJ大塚のイヴェントを観に行きました。先日の渋谷Tangleに続き、ジャズD.J.イヴェント探訪が続いていますが、これはコロナ禍で逼塞を余儀なくされているジャズ・音楽業界が今後どう生き延びるか、その答えを探ろうという思惑も少なからず秘めています。

 

というのも、日本における「ジャズ喫茶」という業種は長い歴史があるため、多様なタイプのジャズ喫茶が存在するとは言っても、いーぐるも含め、ある種の「枠の中」でジャズを捉えているのではないかという思いがこのところしてきたからです。

 

海外ジャズ・ミュージシャンの招聘が難しかった戦前に誕生し、やはり大物タレントの来日が珍しかった60~70年代に最盛期を迎えたジャズ喫茶は、ある意味で「ライヴの代替物」としての機能を期待され、それは21世紀を迎えた今も続いていると言っていいでしょう。つまり日本におけるジャズの受容は、コンサート会場 / ライヴハウス、ジャズ喫茶、そしてレコード・CDショップの3本立てということにでもなるでしょうか。

 

しかしよく考えてみれば、ジャズ音源を提供する場がジャズ喫茶に限らない状況はずいぶんと前に始まっていたのですね。80年代から90年代にかけ、UK発のDJたちがジャズを音源として踊らせるクラブカルチャーが誕生し、日本にもそうしたムーヴメントが伝わっていたのです。しかしながらジャズ雑誌、ジャズ喫茶を含む日本のジャズ業界は、こうした動きに対し必ずしも柔軟に対応して来たわけではないようです。

 

日本のコアな(そしてある意味で保守的な)ジャズファン、そしてジャズ評論家は「ジャズで踊らせる」という一事に拒絶反応を示したのです。そしてジャズ喫茶界隈のファン層も、そうした空気を肯定しているように見えました。

 

私自身は89年に日本公開されたクリント・イーストウッド監督の映画『バード』で、パーカーの演奏に合わせて聴衆が踊るシーンを見ており、また、そもそも戦前のジャズシーンはダンスバンドがジャズの重要な構成要素でもあったことも知っているので、「ジャズで踊る」ということにさほど抵抗感はなかったのですが、90年代当時は大げさに言えば「ジャズを冒涜」みたいな雰囲気があったようです。

 

確かにその頃紹介された「DJ発ジャズ」は、多くのジャズ喫茶で聴かれていたアルバムとは若干テイストが異なっていたことは確かでした。また、率直に言って当時はDJという存在自体が、ジャズファン界隈からは若干色眼鏡で見られていたようです。

 

ところで、DJとひとことで言っても、私も20代の頃FENでよく聴いたウルフマン・ジャックのような元祖ラジオDJと、70年代以降に誕生したヒップ・ホップDJはずいぶん違うもので、そして今話題にしているUK発クラブDJもまた微妙に性格が異なった存在ですよね。

 

私がDJを身近な存在として初めて感じたのは、意外かもしれませんがロックDJでした。70年代当時、私自身「いーぐる」と同時に「ディスクチャート」というロック喫茶をやっていたこともあり、今も渋谷にあるロック喫茶の老舗「グランドファーザーズ」によく通ったものでした。

 

この店はアナログ盤片面を通してかけるジャズ喫茶とは違い、2台のターンテーブルを使い一曲ごとに繋いでいく、現在のジャズDJと同じ手法でお客を楽しませていたのですが、その選曲 / 繋ぎが絶妙だったのです。その頃はジャズに比べ私のロック知識は浅く、そのことに比例するようにロック・ミュージックへの愛着度も低かったのですが、グランドファーザーズの名DJは私の知らない楽曲を実に魅力的に聴かせてくれたのでした。

 

以来私は「DJ技術」の底力を実感したのですが、それと同時に、音楽ジャンル・手法こそ異なれど、選曲 / 繋ぎでお客を惹きつけるジャズ喫茶レコード係とDJは、根底において発想が同じであることも実感したのです。ですから、80~90年代当時、DJを「他人が作った音源をかけているだけ」と揶揄する人たちに対し、「ものの見方が浅いなあ」と思ったものでした。

 

こうした体験があるので、前回訪れた渋谷Tangle での若手DJさんたちの意外とも思えるジャズ選曲も、「場の演出」という視点から楽しむことが出来たのです。

 

いささか前置きが長くなってしまいましたが、今回のBar stereo における「Baker’s Mood + DJ大塚」、私が何となく感じていたことを確認させてくれた素晴らしいイヴェントでした。

 

ひとことで言ってしまえば、DJ大塚のDJ技術のレベルの高さを実感したのですね。知っている楽曲が実に魅力的に聴こえるのです。それに比例するように、Bar stereoのカウンターを囲むお客たちも、この店の売り物である多様なカクテル、ワイン楽しみつつ、じっくりとジャズに聴き入っていました。

 

これって、「場」こそ異なれどジャズ喫茶空間がうまく機能している瞬間とまったく同じなのですね。つまりレベルの高いDJが仕切る場は、ジャズ喫茶が生み出す好ましい時間を「濃縮して」提供しているのです。ですから、こうしたイヴェントに「技術料」としてチャージが発生するのは極めて当然だと思いました。

 

付け加えれば、和地誠さん率いるDJ集団Baker’s Moodのみなさん(山下達郎さん、松崎兄さんら)それぞれが登場するごとに場の気分が変わり、そのこと自体がとても贅沢な体験でした。極めて凝った選曲をする方、Strata East盤を固め打ちにするDJさん、そしてアート・ペッパーを実に良いタイミングで聴かせてくれた大塚さんなど、各々のDJが担当する時間帯自体がまさに「個性発現の場」で、要するに彼ら自身がジャズ・ミュージシャンと同じように、紛れもない表現者たちなのです。

 

そしては初めて訪れたBar stereo も、こうしたイヴェントに適した極めてコージーな空間を作っているのですね。JBLのスピーカーを4台使うという変わったシステムから繰り出されるサウンドは、ジャジーなテイストを満喫させると同時に聴き付かれしない柔軟性を備えた巧みなチューニングが施されており、店主のジャズに対する理解・愛情が感じられました。

 

 

結論として前回に続いたジャズDJ探訪で私が得たものは、いささか手前味噌ながら選曲を重視した「いーぐる」のスタンスは、21世紀のジャズシーンにおいても、それなりに有効なのだなという思いです。一曲ごとの繋ぎが生み出す「濃縮されたDJ空間」に対し、「アナログ片面相当」つまりCDであっても20分程度でアルバムを切り替える「ジャズ喫茶選曲」は、それこそ「在宅勤務」の気分転換や読書のBGMとしても楽しめる、「より、ゆったりとした音楽空間」を提供しているのだという思いです。

 

ちなみに「いーぐる」の選曲は、スタッフが選曲する火曜と木曜18:00~19:00の「新譜紹介」の時間帯を除き、すべて私があらかじめ選曲したプログラムに従っているので、「いーぐる」はDJ後藤の「場」でもあるのですね。