【ジャンル横断的クラシック講座】  【RM jazz legacy】   【New Arrivals, Vol.25】


1月30日(土) 【ジャンル横断的クラシック講座】

林田直樹さんによる「ジャンル横断的クラシック講座」の第2回目『“響き”〜前衛と古楽を結び付けるもの〜』、想像以上に心に残る良い講演だった。まずもって「音」が素晴らしい。以前から思っていたことだが、ほんとうに力のある音楽表現は、それこそ「ジャンル横断的」に伝わって来る。

とは言え、それにはちゃんとした「理由」もあったようだ。講演後に林田さんから聞いた話だが、林田さんはたとえ初心者に対してでも、選曲はいわゆる「初心者向け」ではなく、第一級のものを選び、ただしそれをなるべく「専門用語」を使わないで説明するようにしているとのこと。たとえば「クラスター」という代わりに、「塗りつぶすということ」という形容でわかりやすく伝える音楽ファンの立場に立った姿勢には、100%共感。

講演内容に触れると、「響き」というテーマをまずアントン・ヴェーベルンアルバン・ベルクといった近代の前衛的作曲家の作品で示し、次いで時代を超えてそうした試みが行われていたことを、17〜18世紀のマラン・マレといった作曲家の作品を対比させるという極めて意欲的な構成。それが私のようなクラシック門外漢にも極めて説得的に伝わって来るのは、ひとえに「音の力」と、林田さんの考え抜かれた「わかりやすい解説」の賜物。

それにしても、クラシック恐るべし。常日頃言っていることだが、えてしてちゃんとクラシック音楽を聴いていないジャズファンに限って、無根拠にクラシックを毛嫌いしたり、あるいは批判したりしがち。ジャズと違って数百年の歴史の積み重ねのあるこの音楽ジャンルは、「好みの違い」を乗り越えた底力があることを理解した上で、「それとは違った価値観」を持ったジャズ特有の「聴き所」を探るのが、まっとうなジャズファン、音楽ファンのありようだと私は思っている。

というのも、私の観るところ、ジャズしか聴かないようなファンの「ジャズ観」は、思いの他「偏って」いることが多いのだ。その傾向は昔からあったけれど、とりわけジャズ自体が「ジャンル横断的」になった21世紀以降はその流れが加速し、昔ながらの「ハードバップ耳」では、とうてい現代ジャズの面白さは汲み尽せなくなっている。理由はかんたんで、ミュージシャン自身が日常的に聴いている音楽が、それこそヒップホップからワールドミュージック、そしてクラシック音楽と極めて多様化しているからに他ならない。

もっとも、「ファンとしては好きなものを聴けば良い」というのは、まさしく正論に違いない。しかし、少なくともジャズとジャズファンを繋ぐ立場に居る方々は、出来る限り幅広い音楽ジャンルを耳にしていないと、ジャズに対する捉え方自体が不正確になるだけでなく、それをファンに伝えることばも、無意識の内に「枠」に捉われたものになりかねない。もちろんこれは自戒を込めてのこと。

それにしても、今回も林田さんが聴かせてくれた音源は刺激に満ちていた。率直に言って「クラシック音楽」は想像以上に幅広く刺激的で、私のような「ジャズ漬人間」の耳にもダイレクトに突き刺さって来る。そして今回も改めて「声の力」の凄みに背筋が戦慄する思いだった。

たとえば、「過激であること」とサブタイトルが付けられたルイジ・ノーノの『力と光の波のように』の凄まじさは、ハンパな「前衛ジャズ」が逆立ちしても到達できない研ぎ澄まされた表現に到達していたし、「声への偏愛(2)」とサブタイトル付けられたドミニク・ヴィスのカウンターテノールの不思議な魅力には、抗しがたいものがある。

ともあれ、今回林田さんの講演おかげで、私の「耳の範囲」は間違いなく拡大 ・進化 / 深化した。ありがたいことだ。このクラシック・シリーズ、今後も定期的に継続させていただだきます。とりあえず次回講演は「アメリカのクラシック音楽」をテーにする予定です。ご期待ください。

なお、当日の選曲リストは明日掲載する予定です。



2月3日(水) 【RM jazz legacy】

DJ大塚広子仕掛ける『RM jazz legacy』のアルバム発売記念ライヴを、『横浜モーション・ブルー』に観に行く。このバンド、以前代官山のライヴハウス『山羊に、聞く?』で聴いているが、今回メンバーを拡大した編成で聴いて驚いた。ハッキリ言って、レベルが2段階ぐらい上がっている。具体的に言えば、しょっぱなから類家のトランペットがノリまくりだし、それを支える3パーカッションのグルーヴ感が途方もない。とにかく楽しく気持ち良く、最高のライヴ・パフォーマンスだった。

それにしても、去年5月に聴いたときも充分良かったけれど、わずか半年でのこの圧倒的進化はどうしたことだろう。ヒントはいくつかある。まず柳樂光隆さんが大塚さんにインタビューした記事で知ったことだが、大塚さんがDJという「耳を頼りにした」というか「耳だけに従ったスタンス」で、現代日本の優れたミュージシャンたちを選りすぐってセッションを行わせたという柔軟な発想の勝利がある。

次いで、これはライヴの後でミュージシャンから聞いた話だが、大塚さんは演奏内容にかなり突っ込んだ要求をだし、積極的に「ダメ出し」をしているという。その成果が半年の間に確実にあがって来たということだろう。世間では、「DJが音楽を作る」ということに半信半疑な向きもあるようだが、『RM jazz legacy』の成功が、DJの「耳の力」を証明している。

こうした意欲的な試みはもっと突き進めるべきだろう。というものライヴならではの発見だが、ミュージシャンたちが実に活き活きとしているのだ。演奏するのが楽しくて仕方ないという風情で、しかもそのグルーヴ感がハンパ無いんだから観ている方もたまりません。

聴き所はいくつもあって、まずスターは類家で、トランペットの切れも極上ならそのちょっとニヒルな風情もヒーロー感あって良し。相対的に地味な藤原のテナーもじっくり聴けば味があって、やはりこのフロントの組み合わせは正解。絡む坪口のピアノ、キーボードも曲想に応じ多様に変化し、バンド・サウンドに彩を加える重要なキーパーソン。

それにしても宮嶋のギターは達者。ウエス張りに親指で巧みに弦を弾き、アイデアに満ちたフレーズを紡ぎだす。しかしやはりこのバンド成功の大きな要素は、豪華絢爛3パーカッションの採用だろう。ファッションもラテン伊達男風にキメた山北のコンガを叩く素振りは、見ているだけで気持ちが良い。それに絡みつつ、ソロともなれば圧倒的なパフォーマンスを示すオマーのジャンベ、まさにリズムの快感極まれり。そしてそれらをうまい具合にコントロールしつつ「ジャズ」に仕立てる横山のドラミングもまた見事。

しかし、明らかに全体を一つに纏め上げているのはベースの守家だ。ジャズ、ラテン、そしてアフリカという微妙に異なるリズムがバンドとして完全に一体化し、極上のグルーヴ感が生まれるの背後から巧みに支えるベースの存在は大きい。ともあれ、大塚広子仕切る『RM jazz legacy』は、現代ジャズのトップ・バンドにのし上がった。



2月4日(木) 【New Arrivals, Vol.25】

今年からテーマを設けることとしたユニーバーサルとディスクユニオン合同の新譜紹介イヴェント、今回のお題は「新時代のピアノジャズ」。毎回楽しみだが、とりわけ今回はいいアルバムてんこ盛。目玉は何と言ってもユニバーサルの新譜、上原ひろみの『SPARK』。彼女のライヴも観たが、バンドとしての圧倒的一体感が素晴らしい。音楽をやる喜びがそのまま演奏のグルーヴ感に繋がり、タイトルどおりメンバー全員が「スパーク」している。これは文句なしに「買い」です。

次いで面白かったのは、噂の『ゴーゴー・ペンギン』。イギリスの音楽はどこか違っているんですね。しかしこのグループはそれが良い方向に作用している。2曲聴いただけだけどこれは面白いです。そしてなんと45年ぶりのドクター・ロニー・リストン・スミスの新録には、これも話題のロバート・グラスパーとジョー・ロバーノが参加。現代の気分にマッチしたオルガンジャズの新境地だ。

そして、マニア注目のトランペッター、アヴィシャイ・コーエンのECM盤は従来の路線とは一味違ったECM風味ながら、じっくりと聴けば、やはりアヴィシャイならではのテイストが好ましい。ユニオンの新譜も面白いものが多く、とりわけDan Tepferの『Five Pedals』が素晴らしかった。シンプルなピアノトリオながらアイデア、切れ味とも申し分なし。

ちょっと地味だけど面白かったのが、Sam Crockattの『Mells Bells』。リーダーはテナーサックスで、それにピアノトリオが絡む。買ったばかりなのでまだ聴き込んでいないが、腰を落ち着けて聴いてみたいアルバム。そして、これも1曲聴いて気に入り購入したけれどまだちゃんと聴いていないのだが、そのトンがり感覚にピンと来たのがMatt Mitchellの『Vista acoumnlation』。これから聴くのが楽しみだ。

なお、次回の『New Arrivals, Vol.26』は、3月2日(水曜日)に決定しました。テーマは『テナーサックスの現在』で、チャールス・ロイドの新譜などが予定されています。ぜひお越しください。