2月7日(水)

久しぶりに夜の勤務。昼間の、ほぼ常連さんで埋め尽くされた店内と打って変わり、夜のお客様はさまざまなドラマを見せてくれる。8時ごろ現れたカップルは、ナカナカ好奇心を喚起する組み合わせだ。ありがちと言ってはそれまでだが、いかにも大手企業管理職といった風情の年配紳士(風)と、およそ似つかわしくないジーパン姿の、これはせいぜい20代後半女性。会話の内容から明らかに親子ではない。
年配氏は、ニュージャージーからマンハッタンに入ると、などと、親子ほども年の違うちょっと「お水系」に見えなくも無い女の子に話しかけている。海外勤務経験のある銀行マンか。イジワルジャズ喫茶親父の目には、ジャズをエサに彼女の気を引いているようにしか見えない。
そのうち年配氏は、ビル・エヴァンスをかけてくれとリクエスト。何を? とたずねると、何でも結構という。こういうのはほとんどマジメに聴きゃしないのだけど、いちおう『エクスプロレーションズ』B面などセットし待機するが、案の定「同伴出勤」のお約束でも取り付けたか、5分も経たないうちに席を立つ。でも彼なんかマシなほう。ちゃんと帰りがけ、気まずそうに「エヴァンスは今度ね」と断りを入れていった。
ほぼ同時刻に来店した、これは中堅企業、中間管理職風オヤジ。ちょっとアブナイ。ビールの追加を持っていくと、何故か慌てたようにコップに注ぎ足してこぼしちゃう。盛んに首を振り、ノッている、ように見えるのだがどうもリズムに合ってない。それはどうでもいいのだが、私の方に視線を送りつつ首を振るので、何か御用かとどうも落ち着かない。どうやら、「オレはジャズファンなんだぞ」ってことをアピールしているようだ。こういうのは、昼間の真性ジャズマニアには、まあいない。
そちらは無視して、初めて来店したという二人連れの女性客の応接に向かうが、若い方の女性が面白いことを言う。《あなたと夜と音楽と》を、バースから歌っているアルバムを教えてくれとおっしゃる。どうやらボーカリストのようで、お客から「あの曲はバースから歌わなきゃ」と言われたが、歌詞がわからないと言う。もともとそちら方面には強くないのでちょっと困まり、いろいろアルバムをひっくり返してみたが、短い時間では検索不能。今度その道の大家、三具さんにでも尋ねてみよう。
その間、爆睡していた「中間管理職風氏」が突然奇声を上げる。何と言ったのかよく聞き取れなかったが、どうやら「何言ってんだコノヤロー」みたいなフレーズを、寝ぼけて叫んだよう。きっと、言うこと聞かない部下かなんかのことでアタマにきてんだろう、少し同情するが、やっぱアブナイ。自分の声に驚いて起きた彼、トコトコとスピーカーの方へ歩みだす。慌てて「どちらへ」と声をかけると、「トイレ」。
たまたま他のお客様が使用中だったので、しばらくお待ちを、と言うが、ガマンしきれないのかトイレの前に立ちしばし待つものの、そのうちトイレのドアをガンガン叩き出す。さすがに困った私は「やめて下さい」と静止する。こういうのは一つ間違えるとトラブルになる。運よく中にいたお客が若い女性だったので喧嘩沙汰にはならなかったが、気の短い客だったら完全にモメちゃう(ワタシだったら間違いなく、何するんだよって言いますね)。
女性客には私から謝って「酔っ払いオヤジですから」と言っておいたが、今度はオヤジの方が帰りしなに「感じが悪い、もうこない」などと抜かす。何言ってやがると思ったけど、とりあえず「ああ、そうですか」といなすと、どうも面白くないらしく「今まで良く来たけどもうこない」と同じことを繰り返す。どうやら私が「済みませんでした」ぐらい言うのかと思ったようだ。このオヤジ、見たことのある顔だけど、要するに私に甘えているのですね。
まあ、店やっているといろいろありますが、概してトラブルメーカーは一般に言われているような若い客ではなく、オヤジ世代が多い。仕事のストレスが溜まっているのかもしれないけど、困ったものだ。結局、こういう人ってジャズ聴いても発散され無いんだなあ。まあ、寝てちゃ聴こえないけど、、、