9月26日(水)

 夕方、山下邦彦さん来店。近日刊行予定の坂本龍一本のゲラを見せてくれる。なんとA4サイズで1000ページ近くなるという。山下さんによると、まさにこの本の内容が、先ごろこのブログに私が書いた山下さんへの質問の回答になるという。
 およそ3時間ほどかけて要旨を説明してくれたが、ミュージシャンではない私は、C7やらトニック、ドミナントあるいは倍音構造といった楽理用語を、実際の「音」として実感するところまで至ってないので、完全に理解できたわけではなかったが、少なくとも、音楽と音楽理論の関係については、共通の認識に達していることが確認された。
 要するに山下さんの言いたいことは、「バークリー理論に代表されるジャズ理論は、簡便に演奏するための一種の方便に過ぎないのに、あたかもそれをジャズの本質であるかのように思い込んでいる一部のジャズ・ミュージシャンには困ったものだ」ということらしい。
 これは私が20年も前に最初の著書『ジャズ・オブ・パラダイス』(講談社プラスα文庫)で主張したことで、ようやくわかっていただけましたかという感じだが、かつては理論というものを半ば絶対的なものだと信じていたという山下さんからこういう話を聞けて、実に嬉しかった。
 まったく偶然だが、山下さんも先ごろY社長の格闘技談義に出てきた内田樹氏の著書を愛読しているという。もっとも山下さんは格闘技関連の著書ではないようだが、、、また、たまたま私も益子さんから借りた仲正昌樹氏の『デリダの遺言』(双風舎)を読み終わったところなのだが、山下さんも彼の現代思想解説書(私も読んだがタイトルを忘れた)を読んだという。
 だからどうしたという話ではないが、ナルホドと思った。実を言うとこのところ益子さんからの推薦本に面白いものが多く、北田暁大さんの『嗤う日本の“ナショナリズム”』(NHKブックス)やら、東浩紀さんの『ゲーム的リアリズムの誕生動物化するポストモダン2)』(講談社現代新書)など、どれももちろんジャズのことなど触れては居ないが、現在のジャズシーンを考える上で実に刺激的な考察だった。
 週末の益子さんの講演が楽しみだ。