2月7日(木)

いーぐるで巻上公一さんのライヴをやることになったが、意外に思っている方もいるだろう。ふだんレコード、CDをかけるジャズ喫茶でライヴ、しかも巻上さんだ。きっかけは、この日記にも書いたが、北里さんの出版記念パーティで巻上さんのライヴを聴いたからだった。
そのとき、まず「凄いなあ」と単純に驚いたのだけど、同時にいろいろ思うことがあった。巻上さんの口琴、ヴォイスからは、ふつうの音楽とはちょっと違う肌触りが感じられたからである。それは、楽器はまったく違うけれど、例えば、ドラム奏者のジム・ブラックがさまざまな道具を使って作り出す音響の、“触覚”とでも言いたくなるような感触を思い起こさせた。
ところで、この「触覚として音を捉える」というのは、いーぐる連続講演で益子博之さんが最近のジャズ新譜の聴き所を解説したときに使ったキーワードだ。今までの常識として、音楽は聴覚で捉えるもので、メロディ、ハーモニー、リズムがまず意識に上ると考えられていた。しかし音には触覚的要素もあって、だから「なめらかな音」とか「ギザギザした音」といった言い方でちゃんと音の感じが伝わる。
ジム・ブラックのサウンドは普通のパーカッション的要素に加え、この聴き手の触覚に訴えるような部分がけっこうあって、そこが彼の特徴でもあり、魅力でもあることを実感したのは彼のライヴを見てからだった。それから彼の新譜CDの凄さに気が付いたようなところも多分にある。つまり巻上さんの演奏から、私は“最新のジャズの聴き所”に近いものを感じたのである。
こうしたいままでの「楽器の音」「ふつうの声」とは少し違った「音」は、ライヴでないと良くわからない面がある。私の体験でも、驚異的ヴォーカル・テクニックを誇るテオ・ブレックマンの本当の魅力を知ったのは、ニューヨークの小さなクラブでライヴを見たときだった。
音楽の傾向は違うけれども、巻上さんのパフォーマンスは、私にテオのことも思い起こさせた。きっと今度のライヴでは、私たちに素晴らしい体験をさせてくれるに違いない。3月8日のライヴは、巻上ファンはもちろん、ジャズファンにもぜひ聴いていただきたいと思う。