9月13日(土)

今回のジョニー・マティス特集は、前回、三具さんのナット・キング・コール講演の際、参考音源としてかけたマティスがナカナカ良かったので私からお願いしたものだ。三具さんはお客さんが来るかなあと心配していたが、私はいーぐるの連続講演を必ずしも「集客」という観点だけ捉えていないので、その点は気にしないでくださいといって依頼したのだった。
案の定というか、いつもよりお客様の数は少ないがこれは織り込み済み。その代わりホントウのヴォーカル好きらしきファンが来てくれ、それが嬉しい。
実を言うと、三具さんの盟友である小針さんは、あまりマティスが好きでないと以前から明言していた。その小針さんまでもが来てくれたのだ。小針さんの言によると、「マティスは10分と聴いてられない」そうだ。
確かにマティスの歌にはクセがある。特に高音域のヴィブラートのかけ方を嫌がる人がいても不思議ではない。私はというと、旨さと違和感の狭間にあるような香辛料の味が、次第にツボに嵌ってくるときに似た感触で彼の歌声に接していた。
それにしてもマティスは巧い。しかし、単に巧いだけなく、チャンとした個性がある。もっともその「個性」に対する好き嫌いはあって当然だ。
私は以前から三具さんの講演が好きだった。選曲が良いこともあるけれど、説明がとてもわかりやすいのだ。今回もビリー・エクスタイン、ナット・キング・コールジョニー・マティスの3人のヴォーカリストのヴィブラートに対する処理の仕方と、彼らのヴォーカルのモダン性について明快な解説が聞けて、これだけで目からウロコだった。なんにしても、好きで、しかもキチンと聴いている人の言うことを聞くのはホントウに勉強になるし、また気持ちのよいものだ。
少人数の打ち上げも盛り上がり、しかし、私としてはかなり丸だったマティスに対するマイナス点を、小針さん、古庄さんから聞くと、それもまた確かにその通りなので、耳の良い人たちの言うことはホントウにコワいと心底実感した。ジャズ喫茶という空間は、こうした音付きの、しかも対面の会話の中でジャズの真髄が抉り出されるのである。