5月16日(土)

世の中には、なんとなく感じているのだがあまり詳しくその理由がわからないこと、あるいは、原因を追究しようとしてこなかったこと、というものがある。私の場合、たとえば、昔の歌がやけ甲高く聴こえる現象は誰しも知っていると思うけれど、どうしてか、ということは特に考えなかった。
しいて言えば、録音特性なんだろうと思っていた。つまり、戦前の録音技術では低域がうまく録音できず、相対的に高音域が勝った、オーディオで言う「ハイ上がり」になってしまう現象だ。これは思い込みではなく、実際古い録音ではベースの音などほとんど聴こえない。
しかし、それだけでもなく、実際に昔の人は高い声で歌っていたのだ、ということが理由付で理解、実感された。些細なことかもしれないが、こうした認識の転換はすごく面白いし、「ためになった」感じがする。
今日の小針さんによるビング・クロスビー特集、上記のような「発見」を含め、短時間にさまざまな知識がわかりやすく頭に入る、非常にありがたい講演だった。まず、これは私も知っていた「クルーナーの元祖、ビング」から。
マイクの使用が低域でささやくような歌唱法の可能性を開き、結局歌自体が変わってしまったこと。これはすごいことだ。技術が文化を変える実例だろう。また、その解説で、昔は遠くまで声を届かせるため、必然的に男でも高い声で歌わざるを得なかったという小針さんの説明を聞き、「言われてみればそうだよな」とコロンブスの卵的認識の転換をさせていただいた。
個人的なことだが、幼稚園の頃見たボブ・ホープの映画の相方がビングだったという半世紀ぶりの記憶の確認なども、映像付講演のありがたいところだ。そして、小針さんの総括として、ビングが自ら作り上げた「善良な市民」というセルフイメージに縛られた結果、エンターティナーとしては成功しても、ジャズ・ヴォーカリストとしてはいまひとつだったという解説も、納得させられた。
それにしても、本当に音楽が好きで「聴き込んだ」人の話は、有無を言わせぬ説得力がある。加えて小針さんは職業柄話し方がうまく、私のように音源のセッティング、接客をしながらの聴取でも、実に良く頭に入るのだ。こうした「技術」もまた、学ばせていただいた。
小針さん、本当にありがとうございました。