9月5日(土)

今回で395回を数えるいーぐる連続講演、講演当日に初めて講演者とお会いするのはさすがに異例。しかし事前に何の不安も抱かなかったのは、紹介者であるアルテスの鈴木さんが、私たち音楽関係者の間で篤い信頼を得ているからだ。講演者である荻原和也さんは、アルテス・パブリッシングからアフリカン・ミュージック・ディスクガイド『ポップ・アフリカ700』を上梓されており、もちろんその道の第一人者。当然期待も高まる。
事前の予想では、ほとんど知らないミュージシャンばかりが登場するのでは、と思っていたが、荻原さんが「ジャズ喫茶でのイヴェント」ということを考慮してくれたせいか、かなり知っている名前が出てきて一安心。とは言え、個別にアルバムを所持しているダラー・ブランド、ザックス・ンコーシ、フェラ・クティらの、アフリカン・ミュージックにおけるスタンス、関係性などは今まで皆目見当がつかなかった。
それが、荻原さんの実にていねいかつツボを押さえた解説によって、なるほど、そういうことなのか、と合点がいくことしきり。そのせいか、3時間を越える長丁場もまったく飽きることがない。
今回勉強できたこと、再確認したところなどを列挙すれば、1,やはりジャズのルーツをアフリカ音楽に求めるのは幻想で、むしろ「ジャズ」(モダンジャズというより20年代、30年代のジャズ)の方がアフリカ音楽に影響を与えている。2,またそのアフリカ音楽にしても、ジャズを含めた北米音楽より、ラテンアメリカからの影響のほうが強い。3,とは言え、エチオピアでは、5音階を用いた特殊なジャズが成立している。4,ダラー・ブランド(アブドーラ・イブラヒム)の母国、南アフリカ共和国は白人支配のせいもあって、アフリカでは特殊な音楽状況にあること。5,これら「アフリカのジャズ」も、時代によって進化、変化している。6,思いのほか「ジャズ」がアフリカでは大衆化しなかったのは、「聴かれる(インテリの)音楽」としての「ジャズ」が、より広範な支持を得ている「ダンス音楽」の地位を乗り越えることができなかったこと。などなど。
他にもいろいろな発見があったが、圧巻はフェラ・クティの15分を超える《Roforofo Fight》で、演奏が次第に熱気を増していくさまはジャンルを超えた迫力、説得力があった。また、個人的に面白いと思ったのは、Duku Pukwanaの《Nobomyo》、そして日本の演歌にも似たエチオピアの5音階ジャズだった。
荻原さんの講演はもちろん言うことナシで、ぜひ今後もお願いしたいと思った。そのあたりの話は、打ち上げの席でおおしまさんからはグリオの特集の要請があり、また、実は荻原さんはブラジル音楽も権威であることがわかり、ショーロなどブラジル方面に行くことも候補に挙がった。どちらにしても、今後荻原さんの講演はいーぐる連続講演の目玉企画となることだろう。荻原さん、よろしく!