9月26日(土)
ジャズ喫茶を長くやっていると、知らず知らずのうちに「ファン」の視点を忘れてしまう。いつも「ジャズ」と「ファン」の仲立ち意識が先に立ち、自分自身もそれであるはずの「一ジャズファン」の心持ちを忘れてしまうのである。
今回の三具さんの講演でそれを思い知らされた。お題は「コール・ポーター・ソングブック」。無意識のうちに、「コール・ポーターの魅力を緻密に分析してくれるのだろう」と思い込んでいたら、相手は一枚上手だった。三具さんはコール・ポーターの名を借りて、しっかりと自分のファン魂を開陳してくれたのである。
それは三具さんの一番好きなフランク・シナトラの歌の巧さであり、アメリカン・ショー・ビジネスの華、フレッド・アステアの宇宙人的ダンスの妙技である。そう思えば、「これではフランク・シナトラの歌がメインで、コール・ポーターは添え物のようじゃない」などという「難癖」は見当外れもいいところ。相手は「確信犯」なのだ。
それにしてもシナトラは凄い。同じ曲を違うアレンジ、テンポで両者共に見事に歌いこなしてしまう。これではいくら三具さんが「さまざまな解釈が可能なのが、コール・ポーターの曲の魅力」と言っても、耳はどうしてもシナトラの歌の巧さに行ってしまう。
ただ、普段インストしか聴かない身にとっては、映像は「曲のシチュエーション」を実にわかりやすく伝えてくれる。《フロム・ジス・モーメント・オン》では、今までジョン・ジェンキンスのフレーズが無意識のうちに鳴っていたが、これからは派手な衣装を身に着けたピエロのようなダンサーが頭の中で踊り狂うようになるだろう。
三具さん、いずれホンモノの「コール・ポーター特集」やってね。