12月12日(土)

中山康樹さんによる「ロックを大音量で聴く会」も3回目を迎え、いーぐる連続講演の中でのさまざまなシリーズ企画の中でも定着した感がある。今回は、第1回『ミック・ジャガーは60歳で何を歌ったか』(幻冬舎新書)、2回目『ビートルズから始まるロック名盤』(講談社文庫)刊行記念企画の続編という感じで、中山さんの新著『愛と勇気のロック50』(小学館文庫)刊行記念イヴェント。
ローリング・ストーンズに象徴される“老人ロッカー”の活躍ぶりから、かつての「ロックは若者の音楽」という通念が、むしろ半ば揶揄的に「ロックは老人の音楽だ」に変わって久しいが、その理解の中身はというと、要するに懐メロ。皆、真剣に彼ら“老人ロッカー”の新譜を聴いているわけではない。そこを突いたのが今回の新著である。
まあ、それには理由もあって、日本の音楽メディアが、元ビートルズ・メンバーとか、ストーンズといったごく一部の大物たちを除き、海外では高い評価を得、人気もある“現役ロッカー”の活動を伝えていないのだ。このあたり、ジャズ界とまったく事情は同じようだ。
そこで中山さんは自ら“啓蒙者”の役割を買って出、レイ・デイヴィス、スコット・ウオーカー、ブルース・スプリグスティーン、CSN&Yジェフ・ベックヴァン・モリソンレナード・コーエンといった大ベテランたちの新譜を紹介し、ロックが今非常に面白い状況にあるということを著書、そして今回のイヴェントを通じ音楽ファンにうったえようとしている。
そして今日、彼らの新録を聴いた私の感想は、確かにロックは、かつて私たちが抱いていたイメージとは異なる音楽となりつつある、というものだ。要するにロッカーたちが年輪を重ねることにより、昔と同じ歌を歌っても表現に深みが増し、決して過去をなぞる“懐メロ”にはなっていないのだ。こういうことはまさに聴いてみないとわからない。
今回のイヴェントは、『愛と勇気のロック50』の編集者、村井康司さんが司会を務め、同著の巻末で中山さんと対談を行っている評論家、坪内祐三さんがゲストとして登場。私は中山さんも連載している雑誌en-taxiの記事や、福田和也氏(この人も大のロックファン)との対談集などで坪内さんがロック好きだということは知っていたが、今回ゲストとして登場していただいて、単なるファンの域を終えたマニアックな愛好家であることが良くわかった。この人ほんとうにロックが好きなのだ。その上での薀蓄なので非常に説得力がある。そして司会の村井さんも、相当のロックマニア。だから、中山さんに対する質問もツボを心得たもので、お三方のやり取りを聞いているだけで大変面白く、勉強になった。
そして、本命の“老ロッカー”たちの歌声も、皆想像以上に充実しており、確かにロックは今、誰も経験したことのない境地へと突入しつつあることが実感として伝わってきた。皆さんも、後日掲載する今日の選曲をお聴きになってみることをお薦めいたします。