3月13日(土)

鈴木洋一さんのウォーン・マーシュ講演、マシュマロ上不さんはじめ、パーカー・マニアなら知らぬ人はいない超コレクター、三浦さん、そしてジャズ評論界の長老、佐藤秀樹さんというお歴々がおいでになり、鈴木さんちょっと緊張のおももち。しかし、本当に好きなミュージシャンを語るときは誰しも自然と熱が入るもので、講演を進めるうちに完全に彼のペース。
やはり勉強になったのはマーシュの経歴や、鈴木さん考案の巧みなガイドラインだった。「はじめのマーシュ」から「内気なマーシュ」「軽やかマーシュ」「ふわふわマーシュ」「シリアスマーシュ」「なかよしマーシュ」「ガチンコマーシュ」「愛しのマーシュ」と、それぞれのキーワードごとにマーシュのさまざまな側面を紹介するという手法は、私もマネしたくなるグッドアイデア
一般ジャズファンにとってはちょっと捉えどころが無いと思われがちなマーシュのようなミュージシャンを紹介するには、こうした「ひとくちメモ」的な枠組みを設定するやり方は実に有効だ。そうやって聴いてみると、確かにマーシュは思った以上に多面性がある。ちなみに私のお気に入りは「シリアスマーシュ」の『Release Record - Send Tape』(Wave)からの《Commentary》。このところいーぐるのご常連となった若いお客様もこのアルバムの入手法を鈴木さんに尋ねていた。いい耳しているなあ(手前ミソ)。
思うにマーシュの特徴はあの独特のテナーサウンドにあると思う。うねうねしたトリスターノ派流フレーズが彼のひしゃげたようなサウンドに乗ると、独特の個性が発揮されるのだ。とは言え、テッド・ブラウンなどと共演すると二人の区別が付きにくくなるのは、どういうことなのだろう。そういう時はマーシュが「合わせ」ちゃっているのかなあ。
しかし一番興味深かったのは、聴いていくうちにアタマに過ぎった「もしかするとジョシュア的ふにゃふにゃサウンドの原型はマーシュじゃないか」という「発見」だった。そうした質問を鈴木さんにしたところ、会場のSさんという方(なんといーぐるがJBL・LE8Tを使っていた頃のご常連)から、ショーター経由でマーシュの影響は現代ミュージシャンに繋がっているという貴重なご指摘。そう言われればそうだ。これは納得。
打ち上げの席での鈴木さんとの雑談で、パーカー、マイルス、コルトレーンといった大物連中のスタイルはすでにしゃぶりつくされ、言い方は悪いかもしれないけれど、残されたマーシュが注目を浴びているという見方はあるかもしれない、という話になった。また、いまどきの「鬱っぽい気分」は「内気なマーシュ」そのものじゃないか、などという意見も出る。そうかもしれない。
なんにしろ、なじみの無いミュージシャンを「そのミュージシャンが好きな人」に紹介してもらうというのは一番分かりがいい。また、そうした状況に臨むと、おのずと自分の好みの傾向も明らかになる。中山康樹さんが「後藤さんはイケイケ路線が好きだからなあ」と言っていたけれど、まさにその通りで、同じトリスターノ派でも、相対的には直球派になっちゃうコニッツの方がやはり好みだ。
しかし同じパーカーフリークの鈴木さんがマーシュを押すということは、鈴木さんは私が気が付いていないパーカーの魅力を聴き取っている可能性を示唆している。これはもう一度「アナザー・サイド・オブ・パーカー」もしくは、「洋一好みのパーカー特集」をやっていただかねばなるまい。大いに楽しみである。