8月17日(火)

8月12日に日経新聞文化欄に掲載した記事に対する礼状を、横尾忠則氏からいただいた。「JAZZ ジャケット アート十選」に、横尾忠則氏がジャケット・アートを描いたマイルスの『アガルタ』(Sony)を紹介したからだ。

その礼状に思いがけない事実が書かれていた。私などはてっきり『アガルタ』というタイトルがすでに決まっていて、当時インドに旅行するなど精神世界に関心を強めていた横尾氏にジャケット・アート制作の依頼があったのだと思い込んでいた。

ところが横尾氏の礼状によると、サンタナのジャケットを見たマイルスが、自分のアルバムジャケットに! ということで横尾氏を指名し、またタイトルも横尾氏が演奏を聴いた上で決めたというではないか。

これには驚いたし不明を恥じた。それにしても、マイルスの慧眼と横尾氏の鋭い感覚にも驚かされた。私などは、多くのマイルス作品の中でも、あのアルバム・タイトルほど見事に内容を言い当てているものはないと思っていたからだ。

ちょっと説明すると、「アガルタ」は伝説上の地底王国で、チベットあたりにそこへの入り口があるという。当時のマイルスの音楽はわかりやすい上昇志向ではなく、もっとわけのわからない混沌世界へ聴き手を誘っているように聴こえ、その目的地としてアガルタほどピッタリと音楽のイメージに合致する場所はないように思えたのだ。

それを言い当てる横尾氏は、伊達に精神世界に関心を持っていたわけではないことが知れるし、その横尾氏の描いた絵を見て横尾氏にジャケットを依頼するだけでなく、タイトルの命名まで任せてしまうマイルスのカンの良さにはただただ驚くしかない。才能のある方たちの直感は恐るべきものがある。