12月18日(土)

もう何年も前から言っていることだが、いまや「シーン」などというものはない。ただ、さまざまな事象(アルバム)が相互に無関係(なように)散らばっているだけだ。当然「一年を回顧」してみても、特定の「傾向」などというものは読み取れない。

とは言え、そうしたジャズの現実を実感する意味では、やはり「2010ベスト盤大会」の意義はあると思う。私自身、一年を振り返ってみて「これは」と思うような作品は思い当たらない。名の知られたミュージシャン、パット・メセニーにしろ、キース・ジャレットにしろ、そして、ジョシュアやメルドーなど、みなそれなりに話題となったアルバムを出してはいるのだけど、彼らの最良の時代を知っているオジ(イ)サンたちの目から見ると、「ものたらない」のだ。

その中で迷った末にかけたのがヴィジェイ・アイヤーの『ソロ』(ATC)なのだが、これは秋の新譜特集でも紹介していたので、二番煎じの感は否めない。では、「どうしようか」と比較したアルバムは何かというと、スコット・コリーの『Empire』(Cam Jazz)で、もちろん聴きどころはビル・フリゼールと、ブライアン・ブレイドの参加だ。

では、なぜ選ばなかったのかというと、「既視感」というか、「いいのだけど目新しくない」という、ゼイタクな感想だ。まあ、そんなことを言えば、ヴィジェー・アイヤーだって大して変わらないと言われそうなんですけれど・・・

グチはそれぐらいにして、良かったことも多い。それはなんと言っても中山康樹さんの実に前向きな提言だ。「ベスト盤」でも、ヒップホップというのだろうか、クラブミュージックというのだろうか、私などがふだんあまり接することのない音源をかけてくれ、「マイルス最晩年の謎」という興味深い話題に参加者の関心を誘った。

その延長上で、オーネット・コールマンの『フレンズ・アンド・ネイバーズ』(Flying Dutchman)とマイルスの『ドゥー・バップ』(Warner Bros)の連続性という、実に斬新な「ジャズ史の新しい線引き」の試みを予告してくれた。来年の『いーぐる連続講演』は、中山さんの『ジャズ・ヒップホップ学習会@いーぐる』と名付けられたシリーズ講演が目玉となるだろう。


連続講演(全5回)【ジャズ・ヒップホップ学習会@いーぐる】

●第1回
2月5日(15:30) 中山康樹
『ジャズ・ヒップホップ第1号はオーネットだった!?〜その歴史と概要そしてマイルスがみた未来・マイルスにみる未来』


●第2回
3月5日(16:00) 大谷能生×中山康樹
ビバップとヒップホップはなぜ仲良しなのか〜その親和性を探る』


●第3回
4月23日(15:30) 村井康司×中山康樹
ビル・ラズウェルの正体を暴く』(仮タイトル)


●第4回
5月28日(15:30) 原雅明×中山康樹
(内容未定)


●第5回
6月25日(15:30) 後藤雅洋×中山康樹
『ジャズ・ヒップホップ学習会総括』(仮タイトル)


どうです、これは魅力的なラインナップでしょう。まず初回で中山さんが、一般ジャズファンはあまり知らないヒップホップ系の音源を紹介し、続いて菊地成孔さんとの共著で知られる理論家、大谷能生さんをゲストにお呼びし、ビバップとヒップホップの親和性という実に意外な関係を探る。3回目は村井康司さんがゲストで、ジャズファンもお馴染み、ハービー・ハンコック「ロック・イット・バンド」の仕掛け人とも言われる、ビル・ラズエルの正体を暴く。

そして4回目には、disques corde 主宰、『音楽から解き放たれるために〜21世紀のサウンド・リサイクル』(フィルムアート社刊)の著者でもある原雅明さんをお迎えし、「そちら側」のお話を中山さんが引き出されるのだろう。最後に私が、「学習会」受講生として、「ジャズ側」の「感想」あるいは「新たな見解」を述べさせていただくことになるのだと思う。まあ、興味深いと同時に責任重大だ。

ともあれ、実はまだまだ不確定、不明な要素が多々ある、90年代以降現在に至るジャズシーンの「解読」という、ジャズファン、そしてジャズ評論に関わる人間にとっての最重要問題が、シリーズ講演となって実現する。これは絶対に聴き逃せない。