7月31日(土)

今日の山中修さんによる「ヴァイブ特集」、想像以上の素晴らしさだった。「以上」と言うからには想定範囲を明らかにしておくと、「夏向きの、涼感誘うヴァイブの名演が聴けるのだろう、それなら山中さんの選曲に抜かりはあるまい」ぐらいの意味だ。つまり、ヴァイブサウンドを気軽に楽しもうというのが主旨かなと「甘く」考えていた。

ところが蓋を開けてみると、ヴァイブという楽器の特殊な成り立ちから奏法、オリジネイターとされる二人のヴァイブ奏者、ライオネル・ハンンプトンとレッド・ノルヴォの対比に始まる本格的なもの。そして、王道路線のミルト・ジャクソンから、ラテン、新主流派ゲイリー・バートンの革新に至る道筋は、見事ジャズ史の沿革となっている。

聴いていくうちに次第に襟を正し、お勉強ムードとなるも、音楽を聴く楽しさはまったく損なわれていない。つまりは非常に優れた講演なのだ。私の考える優れた講演とは、「視点、説明、音」の三拍子が揃っているものを指し、その意味で100点満点と言える。

具体的に言えば、ヴァイブという特殊な楽器を歴史的に通覧してみることによって、非常にシンプルにジャズの歴史が概観できることを明らかにしたこと。これは非常に優れた視点だと思う。同じことをトランペットでやろうと思ったら、とうてい2回や3回の講演では収拾がつかなくなることは眼に見えているが、驚くべきことに、ヴァイブなら1回でそれが可能なのだ。

また、それぞれのヴァイブ奏者に対する適切な解説は、結果として、こうした視点のわかりやすい説明となっている。そして、選ばれた音源は、例えばマイルスの『バグス・グルーヴ』(Prestige)など、よく知られたものだが、同じトラックもミルト・ジャクソンにスポットを当てて聴くことによって、また違った景色が見えてくるのだ。と言うか、シンプルに聴いて気持ちの良い音ばかりが選ばれており、まさにお勉強と楽しみがいっしょになった素晴らしい選曲なのである。

今まで山中さんに何回も講演をやっていただいてきたが、ほんとうにエラそうな言い方で気が引けるのだが、明らかに講演のレベルがワンランク上がったと思う。自分のことは棚に上げての妄言だが、岡目八目ではないけれど、多くの方々の講演を聴いてくると、イヤでもレベルが見えてくるものなのだ。山中さんの講演、これからが楽しみだ。