9月17日(土)

今日の連続講演は、先週、私と村井康司さんが渋谷の「Li-Po」でやらせていただいた『ジャズとワールド・ミュージックの微妙な関係』のプレ講演のいーぐる編で、今度はワールド・ミュージックの方々にいーぐるにおいでいただき、ジャズファンにワールド・ミュージックの魅力をわかりやすく解説していただこうという趣向である。解説は元『スタジオ・ヴォイス』編集長、松山晋也さんと『音楽夜噺』主宰、関口義人さん。

ワールド・ミュージックと言ってもそれこそ「世界音楽」なのだから、地球上のさまざまな地域の音楽があり、それらをほぼ地域別に松山さんと関口さん各々のセレクトによる音源を聴かせていただいた。やはり餅は餅屋、お二方のわかりやすい解説によって、私たち門外漢にも、おぼろげながらではあるけれど、ワールド・ミュージックの魅力が見えてきた。これはおそらく、今日おいでいただいた多くのジャズファンの感想でもあるだろう。

というわけで門外漢代表としてつたない感想を述べさせていただく。まず、当たり前のことではあるけれど、地域によってこの音楽はずいぶんと違う。そしてもう一つ、どちらが良いということではないけれど、素人耳にも洗練された音楽と、ある意味「素」の魅力で聴かせるタイプがあった。また、これも当然ではあるけれど、松山さんと関口さんお二方の微妙な好みの違いのようなものも見えてきて、これはこれで面白かった。

以下、極私的感想を書き連ねると、関口さんの選曲から、トルコのユーミンと言われているというEskidendi ,Cok Eskiden / Sezen Aksuの強い声が耳についた。「耳についた」と言っても悪い意味ではなく、独特の声の力を感じたというようなこと。もっとも関口さんも松山さんも、「彼女の歌は“大ぶり”なので、1曲で充分、みたいなところがある」というような意味合いのことを言っていた。ともあれ、私たちが日常的に聴くポップスとは一味違う「ワールド・ミュージック的」な音楽ではあった。

同じく関口さんの選曲、セルビアのブラス・アンサンブルVenzinatiko / Goran Bregovicが良かった。これは旧ユーゴ、チトー亡き後の歴史をファンタスティックに綴った映画『アンダーグラウンド』で使用された音楽で、私は映画も見、その時音楽も大いに気に入ってサウンドトラックを購入し、一時期店でも良くかけたものだった。

ちょっと哀愁のあるブラス・アンサンブルをバックに展開される、いささか奇想天外なストーリーはユーゴスラビアの歴史に通じていないとわかり難いところもあるけれど、ハリウッドとは一味違い、またいわゆる「ヨーロッパ芸術映画」のテイストともかなり肌触りの異なる映像は、一見の価値がある。そしてこれまた関口さんの選曲によるサリフ・ケイタのNou Pas Bougerは、私もCDを持っているぐらいで、やはりワールド・ミュージックの定番的魅力がある。

一方、松山さんの選曲からは、インド洋の小島フランス領レユニオンのDanyel Waro『Foutan Founnker』が良かった。どう良いのかはうまく説明できないけれど、記憶に残った限りで言えばリズムと声だろう。同じく松山さんのセレクトからコンゴザンビアのドラム缶を輪切りにし、羊だったかの皮を張った手製大型バンジョーが特徴的な『The Kalindula Sessions』のリズムが面白かった。

もともと私はアフリカ系の音楽が好みなのだが、そのツボに嵌ったようだ。面白かったのは、関口さんはこの手のアフリカものは好みではないと発言していたことである。ワールド・ミュージック・ファンと言ってもいろいろあるのは、ジャズファンだって同じこと、それも納得がいった。

そして同じく松山さんのセレクトで気に入ったのは、ブラジルのSilverio Pessoa 『Collectiu Encontros Occitans』。もともと南米大陸そしてカリブ海地域の音楽については本当に大雑把な理解しかなかったのだが、このところいーぐる連続講演で、村井康司さん、伊藤嘉章さん、荻原和也さん、そして栗本斉さんらにこの地域の音楽を紹介していただいて以来、なんとなくではあるけれど、それぞれの地域の音楽の聴きどころみたいなものが見えてきた効果が現れたように思う。未知の音楽を聴く効用はこうしたところにあるように思う。

最後の質疑応答ではオクシタン語についての相当専門的な話も出、私などには良くわからないところもあったが、私が関口さん、松山さんにお尋ねした質問の答えは多いに合点がいった。それは乱暴と言えば乱暴な質問なのだが、お二方がどうしてワールド・ミュージックを好きになったのかというものだ。

まず、私より10歳ほどお若い松山さんは、生まれ故郷の鹿児島では海が間近に見え、その先には一体何があるのだろうという好奇心が世界の音楽、ワールド・ミュージックに対する興味に繋がったというもので、これは私たち団塊世代が戦後アメリカ経由の「洋楽」に憧れたことと引き合わせてみれば、大いにわかる話であった。

また、私とほぼ同世代の関口さんのお答えはちょっと特殊で、仕事の関係で世界中を動き回り、それこそ多様な民族人種と交流する中で、自然と彼らの聴く音楽に興味を持つようになったそうである。まあ、これは関口さんと同業の伊藤さんなども同じ回路なのかもしれない。

ともあれ、こうして他ジャンルの音楽を聴き、また異なった音楽を評論する方々との交流は、素朴な好奇心を満足させると同時に、ジャズ自体に対する見方、聴き方も、知らず知らずのうちに広さを増すように思われる。こうした試みは今後とも推し進めていくつもりである。最後に、本番イヴェントの告知を再び掲載させていただきますので、ぜひ足をお運びいただきたいと思います。






●イヴェント告知



【ジャズとワールド・ミュージックの微妙な関係】


●10 / 29 (土) Live Act : minga
Talk Session : 栗本斉、後藤雅洋、佐藤英輔、関口義人
               中山康樹松山晋也村井康司、山本幸洋
● 30 (日) Live Act : Salle Gaveau
Talk Session : 北中正和後藤雅洋、佐藤英輔、関口義人
               中山康樹松山晋也村井康司ピーター・バラカン

●Open 15:30 Start 16:00
●会場 Com.Café 音倉 世田谷区北沢2-26-23 EL NIU B1F Tel 03-6751-1311
●料金 予約 4000円 当日 4500円 通し券 7000円 両日ともw / 1drink いずれも会場にて販売
●特典 当日限定・特製ブックレットをプレゼント!
●予約・問い合わせ 03-6751-1311(Com.Café 音倉)、03-3357-9857 (いーぐる)
         Zoopah@jcom.home.ne.jp(関口)