1月14日(土)

好例の新春第一弾いーぐる講演は、原田和典さんによる久しぶりの“純”ジャズ特集。「やはりジャズはいいなあ」と、思わず感慨深くなる。今回のマックス・ローチ、誰もが知っているミュージシャンを原田さんがいったいどう料理するのかという興味と、ローチのリズムに対する個人的な関心とによって期待は大きい。

結論から言うと、さすが原田さん、冒頭から「エッ、こんな音源知らないよ」とマニアが驚く珍盤でお客様の関心を一気に惹きつけ、緩急自在の好選曲でローチの魅力、実力をファンに再認識させてくれた。

冒頭の珍盤とは、1963年の来日時に日活映画『黒い太陽』のために演奏した映画音楽。しかし、これが凄いのだ。いわゆる映画音楽のイメージを裏切るマジ演奏。冗談抜きで名演と言っていい。

また、「音質が悪い」ということで敬遠され勝ちな「発掘音源」も果敢にかけ、わりあい「整った演奏」と評価されることの多いローチ=ブラウン・コンビの、ライヴで見せる白熱ぶりもキチンと紹介。

こうしたていねいな導入があるので、例のパウエル《ウン・ポコ・ロコ》3連発も皆さん最後まで真剣に聴いておられた。それにしても、この演奏を取り込んでラップ仕立てにしちゃうなんてテクノロジーの進歩には驚くべきものがある。そしてその当然の結果として音楽も変容していくのだろう。

最後の質疑応答で原田さんに、“ローチのリズムに対する個人的関心”をぶつけてみた。それは以前からなんとなく感じていたローチの異質感だ。まあ、プロなんだからみんなリズムが正確なのは当然としても、ローチの正確さは他のドラマーとはちょっと違う次元に行ってるような気がするのだ。

「いーぐる掲示板」にも書いたが、たまたま屋外で間近からローチのドラミングを体験した時、ルームエコーの影響を受けずストレートに伝わるリズムの恐ろしいまでの正確さにちょっと怖いような気がしたことがあった。

ローチのドラムソロは、ブレイキーのようにナイアガラ・ロールで盛り上げたりせず、ただひたすら正確無比に迫ってくるが、その本当の凄みはナマで、しかも残響ナシでないと体験できないということなんだろう。

そういう体験もあって、ローチのリズム感はいわゆる“黒い”ちょっとルーズでタメを効かせたタイプとは異質なんだなあというイメージを抱いていた。そんなとき、村井康司さんと伊藤嘉章さんによるいーぐる連続講演で、ハイチのドラム奏者、チローロにローチが影響を受けているという話を聞き、実際音源も聴いたが、確かに通じるところがある。

これは私にとってけっこう意外だった。カリブの島、ハイチはアフリカからアメリカへアフリカン・アメリカンが強制的に連れてこられた中継地点に当たる。つまり、「黒い」地域なのだ。要するに漠然と「黒さ」に対するイメージを抱いていても、実際の音源を聴くと、かなり先入観と異なることがあるということが言いたいのである。

この辺りの事情を原田さんはどう捉えておられるのか原田さんに尋ねてみたところ、当然原田さんもチローロの存在は意識しておられ、過去にずいぶん雑誌、講演などで取り上げたが、たまたま村井さんと伊藤さんの講演は聞いていないということで、とりあえずこの件については今後の研究課題とすることとなった。楽しみである。