2月25日(土)

それはまさに司会の村井さんが思わず放った「レジェンド」のひとことで要約できる素晴らしい1日だった。日本でもっとも早くコルトレーンのライヴに接し、貴重なカラー映像を記録された『DUG』中平穂積氏と、そのニューポート・ジャズ・フェスティヴァル出演直後に来日したコルトレーン日本公演の司会を務められた相倉久人氏が一堂に会し、ほぼ半世紀前の思い出話を語る。こんな贅沢な場に居合わせただけでジャズファン冥利に尽きると思われた方は私だけではないだろう。

立ち見まで出る大盛況の中開かれた『文藝・別冊 ジョン・コルトレーン』(河出書房新社)刊行記念イヴェントは、編集に参画された村井康司さんの司会進行によって進められ、相倉、中平両氏の貴重なナマ、コルトレーン体験談や、当時の面白おかしいジャズ界裏話など、あまり活字メディアには登場しない60年代ジャズ・シーンの実態が和やかな雰囲気のなかで語られる、実に中身の濃い催しだった。

コルトレーン来日ライヴ、オリジナル盤に記録された相倉氏の若々しいアナウンスや、来日時のさまざまなエピソードなどを聞くと、ほんとうに「いーぐる」の空間がジャズ喫茶最盛期の60年代にタイムスリップしたかのよう。

そして久しぶりで見る唯一のコルトレーンのカラー映像は、想像以上にエネルギッシュでとうてい病に身体を冒されていたとは思えない迫力だった。まだDVDなどが世に出回らない頃、中平氏が撮影されたこのフィルムは、全国のコルトレーン・ファンの思いを癒す唯一の資料として、重い機材を担いで中平氏が全国のジャズ喫茶を巡って上映会を開催した由緒あるもの。私も大昔まだ『DIG』が新宿二幸裏にあった頃見たことがある。

そうした熱気を現すように、当日用意した『文藝・別冊 ジョン・コルトレーン』は20冊以上が売れるという信じられない売れ行き。これは幸先がいい。

そして打ち上げの席で出た、まさに日本ジャズ界の最深部を知るお二方による、「ここだけの話」の面白さに思わず抱腹絶倒。とりわけ植草甚一氏や鍵谷幸信氏の、ある意味でスケールの大きな「トンデモぶり」は、古きよき時代の「人間の大きさ、可笑しさ」を如実に現していた。

こうした場に居合わせることが出来ただけでも、ジャズ喫茶を長くやっていてほんとうに良かったと心から思う一日であった。そしてこうした「場」は私一人の力ではとうてい維持することは不可能で、編集企画から司会進行まで引き受けてくれた村井康司さん、実はけっこう苦労した映像機材調達に奮闘してくれた田中ますみさん、編集実務はじめさまざまな準備作業を受け持ってくれた池上信次さんら、ほんとうに音楽を愛する方々の貴重なお力添えによって成立していることもまた、深く感じ入った一日だった。

音楽の力は素晴らしい。