6月16日(土)

「音は人なり」って、誰が言ったか知らないけれど、まさに今日の小針さんのエリントン特集、小針さんのお人柄がにじみ出た素敵な講演会だった。話は小針さんが高校生の頃、初来日したエリントンのライヴを見て「はてな?」と首をかしげたところからはじまる。

同世代の私はというと、当時はヴェンチャーズの《キャラヴァン》を「オッ、カッコいいぜ」と驚嘆し、後に「どうしてエリントンはヴェンチャーズの曲やるの?」って首をかしげたおバカな高校生でした。

それはさておき、小針さんの「感想」はなんとなくわかる。大学生になって無謀にもジャズ喫茶を始めるとき、参謀になってくれた隣のクラスの茂木さんもまたエリントン公演に行き、「アレッ」と首をかしげた体験を話してくれたからだ。

要するに60年代エリントン・バンドは、ベイシー・バンドのような「わかりやすいビッグ・バンド」ではなかったということなんだと思う。それは今日の小針さんのおかけになった60年代の演奏を聴いても良くわかり、小針さんが再三私たちに「はたしてこれがジャズなんでしょうか?」と挑発していたことに、端的に現れている。

それにしても、小針さんが素敵なのは、そうした高校生のナイーヴな感覚を大切にし、そこから氏の「ジャズ人生」が始まったというところだ。「わからないけれど、惹かれるもの」、ジャズにはまさしくそうした不思議な魔力がある。

すでに林さんによって何回も行われたエリントン講演が、いわば批評家の冷徹な眼差しによって分析解体されたエリントンだとしたら、今回の小針さんのエリントン特集からは、初恋の恋人の魅力を、半世紀後に振り返る、懐かしくも暖かい心持が素直に伝わってきた。

私は林さんの連続講演によってようやくエリントン像のピントが合ったありがたい体験があり、そして今回、小針さんの特集によって、「ジャズとの出会い」が如何に大きな影響を人に与えるものかという実例を目の当りにした。

打ち上げに雁首そろえた、小針さんはじめcom-post林さん、グラウアー古庄さん、そしてミュージック・バード、ディレクター、太田さんら、われら団塊ジャズ老年たちはみな何らかの形で「ジャズにヤラレちゃった」体験が尾を引き、いまだにこうしてジャズを聴き、そしてそれを仕事にしているのだった。

こうした濃いズブズブの「ジャズ人脈」は、ひとたび意気投合すればアッという間におもしろ企画が持ち上がり、今まで誰も手をつけなかった、というか大物過ぎて手がつけられなかったサッチモことルイ・アームストロングの「真剣ギャラ総取り、サッチモ10番勝負」が小針さんと林さんによって、来る8月25日(土)15:30よりいーぐるにてとり行われることとなった。

お互いに「これぞサッチモの名演」と思われるトラックをそれぞれ持ち寄り、お客様方の前で披露し、どちらの選曲がグッドだったか競い合い、その得点で勝った方が当日の講演ギャラを「総取り」するという、楽しくも興味深いイヴェントだ。これは楽しみです。