8月31日(金)
赤坂のライブハウス『B Flat』に、渡邉晋率いる「東京ブラスアートオーケストラ」のライヴを見に行く。「アンサンブルの進化と変遷1」とタイトルされているが、採りあげた曲目は冒頭にバッハが登場したが、エリントン、ジョージ・ラッセル、マイルス、ショーターなど、基本的にジャズ系の音楽。また、バンドもいわゆるフルバンで、ヴァイブの参加が好ましいバンドカラーを形作っている。

この公演に、以前「いーぐる」でレコード係りをしていただいた山口紀子さんが《霧の交わるところII》という新曲を提供している。山口さんはレコード係りとしても非常に有能で、当時は彼女のファンも多かった。後にアメリカに渡り、ジョージ・ラッセルに直接師事して作曲の勉強をする。あの難解で知られるリディアンなんたらという音楽理論を完全にマスターし、それを教えることができる許可のようなものを持っている数少ない日本人の一人。

面白いことに山口さんは、いまやジャズ評論界の重鎮、杉田宏樹さんが当店でアルバイトをしていた頃の同僚で、その縁もあって当夜は杉田さんも観に来る。当然昔話に花が咲き、同時期アルバイトをしていた「カーグラフィック」元編集長、塚原さんやら、当時は「スイングジャーナル」の営業マンとしてよく当店に遊びに来てくれた、現「JaZZ JAPAN」代表、三森さんなどの名前が次々登場。

肝心の音楽だが、はじめて聴く「東京ブラスアートオーケストラ」の演奏は素晴らしく、とりわけ音楽の持つエネルギー感、ダイナミクスの表現が巧み。ソリストもパワフルなバリトン、巧みなテナー、華麗なヴァイブと役者が揃い、選曲の妙もあって2部構成ほぼ3時間近い間、飽きることなく多くの楽器の音色が空中でブレンドされる「フルバンの快楽」に浸った。

山口さんの新曲も、ご本人は事前に「なんか、うにゃうにゃした音楽なんですよお」などと謙遜していたが、涼しげな鈴の音に始まる、聴き手の想像力を喚起する起伏に富んだ曲想は、明らかに個性的でオリジナリティに満ちていた。彼女が「いーぐる」で働いてくれていた頃は、モンクやらドルフィーといった「個性派」を愛聴していたが、彼女も見事自前の個性を身に付けたようだ。

その夜は杉田さんと二人して、「これから山口さんを応援しよう」と意見が一致した。というのも、現在彼女は福井に居住しておられるので、どうしても東京のジャズ関係者とは頻繁に会うことが出来ない。いまやジャズ界人脈のセンターに居る杉田さんが、良い伝手を紹介してくれることだろう。