10月13日(土)

いろいろな意味で充実した講演だった。集客52名は今年最高。必ずしもお客様がたくさん来ればいいとは思っていないが、ほんとうに良い音楽を求めている方々が大勢来て下さるのは、もちろん嬉しい。そして内容、これが素晴らしかった。私はブラジル音楽のことなどよく知らないのだけど、初めて聴くギンガ、すんなりと身体に沁みとおる。そして良い音楽を聴いた後の心地よい陶酔感は一日中続いた。

濱瀬さんの解説によると、音楽のクオリティに見合うだけの評価はブラジルでは受けていないというような話だったが、私などが漠然と抱いていたブラジル音楽に対するイメージを良い方向に裏切る質感の高さに驚く。何しろ初体験なので、具体的にその美点をうまくことばにすることは出来ないのだけど、これ見よがしではない質の高さは私でも実感できた。少なくとも、私の中での「ブラジル音楽」の位置付けが数ランク上がったことは間違いない。

ひとつだけ確実に言えるのは、濱瀬さんの選曲が抜群に優れているということだ。濱瀬さんは「ご自分のやる音楽」と、「聴く音楽」を明確に分けて考えているとのこと。つまり、必ずしもジャズの耳でブラジル音楽を聴いているというわけではないということだろう。また、濱瀬さんは、とりあえず使った「ジャズ」「ブラジル音楽」というジャンルで音楽を捉えているわけではないとも言っていた。要するに「音楽の質」を、ジャンルを超えたレベルで判断できる高度な審美眼を持っていらっしゃるということだ。

これって、実はものすごく大事なことだと思うのだけど、世間ではあまり理解されてはいないようだ。圧倒的な選曲眼の確かさと、それを裏付ける「音楽観」と言っていいのだろうか、音楽に対するスタンスの正確さに、私はいっぺんで濱瀬ファンになってしまった。まあ、一流の音楽家はみなさんこうしたことはわかってらっしゃるのだから、当然といえば、当然のことなのだが…

打ち上げの席で濱瀬さんが学校の後輩で学部も同じことがわかり、昔話に花が咲く。音楽以外にもいろいろな話題が出たが、世代が近いだけに頷けることが多い。こういう出会いもまた、イヴェントの楽しみの一つだ。

少々話題が濱瀬さんに偏ってしまったが、今回の講演成功の裏には、花田さん江利川さんらの入念な下準備があったであろうことは想像がつく。また、会においでくださったブラジル音楽の大御所、中原仁さんが要所要所で的確なコメントを下され、これも私たち観客にはありがたかった。そして、こうした企画を「いーぐる」に持ち込んでくれたcom-post同人、柳樂さんの存在も大きい。

このところ、com-postは言うまでも無く、「いーぐる連続講演」における陰の仕掛け人としての柳樂さんの活躍は素晴らしい。音楽シーンはこうした有志によって支えられていることを今日ほど実感したことは無い。

最後にあらためて、濱瀬さん、花田さん、江利川さん、そして柳樂さんに深く感謝いたします。ありがとうございました!