12月22日(土)

EMIミュージック・ジャパンが新譜として出した、アナログ盤ビートルズを聴く会は大成功裏に終わった。お客様の入りも上々なら、内容はそれを上回る予想以上の濃さだった。ビートルズ、音楽的中身がいいのはわかりきっている。だから、今回の「ビートルズBOX」なる定価59800円也のシロモノの評価の大半は、新しくプレスされたアナログ盤の音質にかかっているといえよう。だからこその当店での試聴会なのだと思う。

冒頭、EMI会長行方さんいわく「(オーディが)いい音してますね」。それに対して私は「いや盤質がいいんですよ」。これ、決して「ヨイショ」ではない。というのも、私は日常的に「いーぐる」の装置でアナログ盤を聴いており、そのクオリティはわかっている。そのレベルに比べても今回の新プレス、圧倒的に音質がいいのである。

具体的に言えば、音に深みがあり、大音量にしてもうるさく聴こえない。演奏、声の質感の細部をちゃんと伝えつつ、ロックならではのエネルギー感も圧倒的迫力で迫ってくる。これはいい仕事だと思った。

結果、初期ビートルズの荒削りながら若々しいみずみずしさから、後期の細部にまで神経を使ったアルバム作りの妙が確実に再現されている。記憶でたどる過去のCDのサウンドよりは間違いなく優れていると思う。ウーン、困った。買い換えるべきか。

音質の良さは当然音楽の評価、感動にも直結し、当初の「4時間以上の長丁場なのだから、BGMとして気軽に楽しんでいただければいい」という私たち主催者側の思惑を裏切り、完全に「ジャズ喫茶モード」で満員のお客様方は音楽に集中没頭してらっしゃる。

象徴的出来事は、一人のお客様が小声で「席変わってもよろしいですか」と私に囁く。なにごとかと思えば「向かいに座っている二人のお客の話し声が気になって音楽に集中できないので」とおっしゃるではないか。まさにこれ、ジャズ喫茶ですよね。嬉しい誤算ではある。

私自身も途中からは仕事を離れ、一音楽ファンとしてビートルズの凄さを肌身で実感した。ポピュラリティと音楽的クオリティ、そして音楽としての新しさが完全な形で共存している稀有な例を改めて目の当りにしたのだ。ジャズではこういう例は無い。「ビートルズが世界を変えた」という形容も、決して大袈裟ではないだろう。

彼らのような歴史上めったに出現することの無い存在が登場し、そして解散するまでの間に青春時代を送ることが出来た私たちの世代は、音楽的には間違いなく幸せだったと言えるだろう。特に私はナマも見ちゃったしね…