1月12日(土)

原田さんと大塚さんのジャズ対決、実に面白かった。予想通りの部分と意外な展開が心地よい興奮を呼ぶ。この企画、昨年末吉祥寺『メグ』で見せていただいた「紅白対抗イヴェント」があまりに面白かったので、寺島さんにお願いしていーぐるでもやらせていただいたものだ。

面白さのキモはそのとき寺島さんが放ったスルドいひとこと「ブラインドにしなけりゃオトコどもはみんな女性軍に入れちゃうから不公平だ!」に尽きる。こういうことを言うときの寺島さんは素敵だ。で、実際この方法でやってみると、「この選曲は女性陣の感受性か、それともオトコの発想か?」と読むところからゲームが始まり、じつに勝負に深いコクが出るのだ。

そういう前例があるので「いーぐる」でも同じやり方を踏襲し、テーマごとの選曲が大塚さんのものか原田さんのものか私を含め参加者全員がわからない状態で、どちらが良かったか挙手で判定するという、考えようによっては実にシビアな勝負となった。

結果は予想通り原田さんの5勝2敗の勝ち。これはある意味当然で、そもそもクラブで躍らせることも考慮に入れた大塚さんたちDJの選曲と、ジャズ喫茶のお客様の嗜好が同じはずがない。つまり、かなりハンディキャップのある状況においての大塚さんの2勝は貴重と言うか、立派なもの。

意外な展開とは、立場、世代の異なるお二人の選曲はもっと異質なものになるかと思いきや、私の事前の想像よりは近しいものだった。だから、けっこう「これはどちらの選曲なのか?」と判断に迷う場面もあったが、勝敗の挙手はそのこととは切り離して行なった。

そもそもこの企画、狙いは「どちらが勝つか?」ではなく、私を含めた「ジャズ喫茶育ち」の感受性とクラブDJのジャズ観の違いを探るところに眼目があり、そういう意味では一定の目的を果たせたように思う。

具体的に言えば、第4試合のテーマ「このアルバムの良さがあなたにわかるか!〜私だけの名盤、極めつけの1曲」で大塚さんが選んだSteve Reid 「Rhythmatism」(Mustevic Sound /Kai、出だしはちょっとユルい感じだったが、後半アーサー・ブライスが登場したとたんいい味が出てくる。

で、私はこちらに挙手したのだが、大塚さんは冒頭のリズム、雰囲気がいいと言う。要するに聴いている場所が違うのだ。やはりこれだなと思った。そしてそれをきっかけとして、なんとなくではあるけれど「クラブDJ的感受性」が見えてきたように思った。

コアなジャズファンはソロの個性、コクを聴き所にしているが、クラブDJはもう少し全体の雰囲気と言おうか、より大づかみに音楽を捉えているようなのだ。こうした聴き方は、決して悪い意味で言っているのではないが、私自身のジャズを聴き始めた頃の受け取り方に近い。

と言うことは、安易に一般化してはいけないかもしれないが、クラブDJ的ジャズ選曲はジャズ初心者には受けが良いのかもしれないのだ。こうした理解が正しいのかどうかは何とも言えないけれど、ちょっとしたヒントは見えてきたように思う。

要するにクラブシーンは、一般音楽ファンに対してジャズに関心を向けていただくための「きっかけ」とはなりうるかもしれないということ。しかし、シビアに言えば、「そのままではダメ」で、そうした方々をジャズの「ドロ沼」にまで引き込むには、もう一手立て必要であるということなのだろう。

雑談の折、大塚さんが「ハードバップの聴き所がいまひとつ」というようなことを言っていたが、これも良くわかる。私自身ジャズを聴き始めた頃はハードバップはみな同じに聴こえたものだった。

それが変化したのは、「ブラインド」がきっかけだったので、大塚さんにもブラインドでミュージシャンの個性を掴む聴き方をしてみたらいかがですかと提言してみた。この方法は一般音楽ファンにも通じるように思う。

ちなみに、当日はるばる甲府からおいでくださった「いっき」さんの「いっきのJAZZあれこれ日記」にこの日の模様が詳しく記録されているので、ぜひそちらも併読していただきたい。