5月2日(金)

オペラパレスに新国立劇場バレエ公演「ペンギン・カフェ2013」を観にいく。以前、デイブ・ブルーベックの『タイム・アウト』(Columbia)をテーマにしたバレエ音楽の解説をプログラムに書いた縁で、普段あまりなじみのないバレエ観劇と相成った次第だ。だから、バレエの内容について専門的な知識があるわけではないけれど、やはり知らない分野は面白い。

前回の公演もそうだったが、最初は古典的な衣装、振り付けで、次第にアヴァンギャルドというか現代的な演出になって行く舞台構成。だから一度にいろいろなタイプの「踊り方」を観ることが出来、素人目にはそれが面白い。

冒頭の『シンフォニー・イン・C』は、全員がまっ白なチュチュで登場。振り付けも(おそらくは)古典的なスタイルと思しきもの。それにしても、当たり前なのかもしれないけれど大勢のバレリーナの手の位置、ステップのタイミングなどがキッチリ揃うのは壮観。いかにもヨーロッパ的かつ貴族文化の印象。

2幕目、『エネルギー』は、おそらく原子を模したと思しき登場人物たちが、電子やら陽子、中性子を思わせる動きを取り入れた、かなりアヴァンギャルドな振り付け。核分裂を思わす「見せ場」では赤い扇子を持ったバレリーナが着物もどきの衣装で登場、音楽、照明もバレエにしてはかなり強烈。特に音量の大きさには驚かされた。たしかPAなどは使っていないはずなのだが・・・

そして最後が「ペンギン・カフェ」。まあ、ペンギンやらねずみやらの「被り物」を纏っての舞台なので、子供が喜びそう。そういえば、おそらくバレエ教室にでも通っているのだろう子供たちがずいぶん親御さんに手を引かれて観に来ていたっけ。童話仕立ての話しだけに、けっこう和んでオトナにも楽しめた。衣装も凝っており、それだけでも見もの。

全体を通じての素人感想は、まず、クラシックならではオーケストラの生音の魅力だろうか。さまざまな楽器の音色が空間で溶け合い、一つにまとまった「サウンド」として劇場内を満たす快感は、やはりジャズでは体験できないもの。「音楽とは音の楽しみである」という通俗的とも思える理解が、けっこうリアルに思えてくる。まあ、もともと知らない曲でもあるけれど、ジャズとはまた違う意味で「曲目より音の魅力」という側面が無視できないように思えた。

それにしてもこのクラシック文化、ヨーロッパではほぼ現代と同じ音響体験を何百年か昔から積み重ねてきたわけで、その厚み、完成度の高さはなかなか侮りがたい。私が「クラシック風ジャズ」を聴くたびに「ホンモノ聴いたほうがよっぽどまし」と思うのもうべなるかな・・・

そしてモンダイのダンスですが、まったくのシロート目には、凄いことは凄いけれど、あんな過激な動きって、いかにも身体を壊しそう。膝関節や脊椎を痛めるんじゃないかとそれが心配。

「見た目の美しさ」を追求するためには、自然な身体機能(関節やら筋肉の動き)をギセイにしてまでエビ反りになったり足を跳ね上げたりすることもいとわない、西欧人の意思の強さを見せつけられる思いでした。

それに比べ、いろいろな意味でバレエと対照的と思える現代ブラック・ピープルにおけるブレイク・ダンスは、過激な動き、高度な技巧という共通点はあるが、身体の動きが根本的に違うように思える。こちらは、もともと人間が備えている自然な身体機能を極限化させることにより、美しさというより迫力を生み出しているような印象だ。

まあ、こちらはギャング同士のいさかいをダンスで勝負を付けようってのが発端だそうですから、目的は「美」より「パワー」なのはアタリマエなのですが・・・

なんかこれって、クラシック音楽とジャズの違いに似ているような気がしないでもない。もちろん、どちらも素晴らしい。