5月3日(金)

久しぶりにママチャリで神保町書店巡り。以前はよく行ったものだが、新宿にジュンク堂が進出して以来しばしご無沙汰。だが、ジュンク堂が「ビックロ」に変り、ちょっと探し物をするにはやはり神田ということに相成る。

目指すは以前からのごひいき「東京堂書店」、ここの品揃えは抜群。しばらく行かぬ間に1階にカフェが出来(ちょうど吉本隆明の写真展が開催されていた)、これも時代の流れかと思いきや、相変わらず本の並べ方は専門書店ならではの風格。とにかく、私が読みたいと思うものが系統的に並べられ、コレでは財布にいくら金があっても賄え切れないと思うような魅力的な書棚(昔は四谷の『文鳥堂書店』が「街の本屋さん」としては抜きん出た品揃えだったのだが・・・)。

今日の買い物は、店に並べる『JaZZ JAPAN』などの雑誌類のほか『進化論を書き換える』(池田清彦著・新潮社)『禁じられた福音書ナグ・ハマディ文書の解明』(エレーヌ・ペイゲルス著・青土社刊)そして、『女ノマド、一人砂漠に生きる』(常見勝代著・集英社新書)。ちなみに『女ノマド〜』は新聞書評の情報、『進化論〜』『禁じられた福音書〜』はアルファ・ブロガー、finalventさんご推奨の書籍。

本選びはアルバム選びといっしょで、新刊は当たり外れが大きい。もちろん自分のカン頼りに書棚を漁るのも楽しいが、信頼できる推薦者を知っていると「歩留まり」がかなり改善されるのも事実。で、私の場合、けっこう重宝しているのがfinalventさんの書評。この方のブログ自体、タダで読ませていただいては申し分けないほど情報量としての充実度、信頼性、読み物としての面白さ、深さにおいて傑出しているが、書評もまた、興味・関心の傾向も含め、「役に立つ」。

『禁じられた〜』も大当たりで(といっても私の興味においてですけれど・・・)以前から関心があった、「グノーシス主義(簡単に言っちゃうと、いわゆる神秘主義思想)」について、近年発掘調査が進んでいる、「ナグ・ハマディ文書(これも簡単に言えば、いわゆる「異端」とされた福音書)」という実証的文献から、極めてラディカル(と思える)結論が導き出されている。「当たり本」を読むのは楽しいし、トクした気分になれます。finalventさん、ありがとう。


良い買い物が出来た後は気分良く神田の街を散歩。大昔よく行った飲み屋『兵六』(たしかそういう名前だった、と思う)が書泉グランデだかの店頭セールコーナーに変身しているのに時の流れを感じたり、どういうわけか『さぼーる』の前に行列が出来ているのに驚いたりと、今浦島の気分。植草爺さんを気取るでもないけれど、ここは喫茶店に行くしかない。

当然目指すは御茶ノ水『グラウアー』。三省堂書店向かいの路地2階にある、友人古庄さん経営するジャズ喫茶へ。まだ陽が高いのでアイスコーヒーを注文。古庄さん自ら豆を挽きていねいに点てたコーヒーは薫り高く実においしい。脇に添えられたラスク様のミニ・スィーツを齧りながら買ってきた本を読むのは至福の時間(それにしても、アイスコーヒー630円也はお値打ち感絶大)。

しかし、職業柄どうしても耳は「ジャズ」に行き勝ち。思わずページをめくる手を休めたのはエヴァンス・ブラッドショウ。リヴァーサイド盤、コンプリート・コレクターにして世界的リヴァーサイド研究家、古庄さんのお店らしく、アルバムは当然リヴァーサイドの『Pieces Of Eighty-Eight』。

もちろん『いーぐる』にもこのアルバムはあるのだけど、ゼンゼン鳴り方が違う。音に腰と力があって、今まで見逃していたこの人の微妙な(というか、フィニアス・ニューボーンJr.との違い)個性が実に良く聴き取れるのだ。これは驚いた。

ちょっと悔しくて古庄さんに尋ねれば、これはオリジナル盤でしかも珍しいモノラル・バージョン。そして『グラウアー』では、モノラルはちゃんとモノラル専用カートリッジで再生しているというではありませんか。いやー、負けました。『いーぐる』では日本盤なので、そのせいかどうか、いまひとつ音に精彩を欠いていたのかもしれない。

それ以外のアルバムも、とにかくこの店の音は50年代60年代のジャズアルバムを再生すると実に「ジャズらしい」音がする。それは再生帯域がどうのこうのという言い方ではうまく説明のつかない、「演奏の躍動感・力強さ・メリハリ」といった、ジャズ再生に必須の要件が実にうまく出てくるのだ。ハッキリ言って、それは現代的高忠実度再生ではないのだけど、「音楽を聴くには」まったく問題がないどころか、むしろこうでなければいけないという音なのだ。

寛ぎに行くつもりがつい商売根性を出すのはさもしいことながら、やはり「勉強になる店」は常時偵察を怠ってはならない。まあ、それも含め、この日は大いに楽しませていただきました。古庄さん、ありがとう!