5月18日(土)

リチャード・ロジャース、もちろん知っている。知っていると思った。だが、小針講演、その裏を書いた、というのは冗談だけど、ともあれ、ほんとうに知っている人の凄みを見せ付けられる、相変わらずの名講演だった。ポイントは二つ。まず、リチャード・ロジャースの変容と、その意味。そして、その実例の提示という講演の王道を行くわかりやすい構成。

具体的に言えば、前期の相棒、天才肌作詞家、ロレンツ・ハートとのコンビ時代と、これも大物作詞家、オスカー・ハマンスタイン2世と組んだ作品のテイストの違いが、実際の音源を示しつつていねいに説明される。

たとえば、日本語に訳しにくい、《レディ・イズ・ア・トランプ》の「トランプ」の意味を「あばずれ」とするか「変わり者」ぐらいに解するか、など、ハートの都会的かつひねりの効いた歌詞がロジャースの曲想と出会うとき起こるマジックが、ジャズファン好みの前期名曲を生み出したという鋭い指摘。

つまり大まかに言って、若干暗めの(というか屈折した)ハートの世界に明るいロジャースの曲想が重なると、プラスとマイナスが良い意味でスパークを起こし、たとえば、マイルスの渋い名演で知られる《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》などが生まれる。

そして、後期のオスカー・ハマンスタイン2世とのコンビでは、《南太平洋》やら《マイ・フェイヴァリット・シングス》などの大作ミュージカルが続き、これは50年代ハードバップ・テイストとはだいぶ肌合いが違うし、そもそも本来ジャズにはなりにくい曲想だ。

面白いのは、そうした曲目をセシル・テイラーやらジョン・コルトレーンといった、「異色」ジャズマンが取り上げ、いわゆる「スタンダード」とは違う世界を生み出していることなど、言われてみなければ気が付かない。

そうした深い洞察は打ち上げの酒席でも続き、小針さんは「実はビリー・ホリディはフランク・シナトラの歌を愛聴していた」という、僕のようなその道に疎い人間にとっては意外なお話をしてくれる。これは捨て置けぬと直ちにそのテーマでの講演をお願いし、日程も決まった。

というわけで、仮タイトル『ホリディとシナトラ』という異色の組み合わせのフシギな影響関係にスポットを当てた講演が7月6日(土)に「いーぐる」にて行われます。ジャズファン、そしてヴォーカル・ファンのみなさま、ぜひお越しください。

追記すれば、当日ゲスト参加してくれたcom-post同士、林建紀さん、小針さん出演のミュージックバード、ディレクター、太田俊さんと小針さんの3人が執筆した、小針さん責任編集による『ジャズ批評』最新号、「スタンダード厳選100曲」はジャズファン必携です。間違いなく「古書価格」上がると思いますよ。今のうちに書店に走れ!