9月13日(土曜日)

共にミュージシャンである吉田隆一さんと大谷能生さんによるドルフィー特集の2回目。いやあ〜、ほんとうに勉強になりました。というのも、僕ら「聴くだけ」の人間は「やる方」の苦労、実践については想像するしかないのだが、おおむねジャズマンという人種はそういうことを語りたがらない。別に秘密主義というのでは無いと思うが、おそらくそういう必要を感じないのだろう(「演奏を聴いてくれ!」)。たまに語ってくれてもシロートにはわかりにくい特殊な表現法なので、とうてい「わかった」という実感は持ちにくい。

例外として、はるか昔だけど友人村井康司さんが編集の労をとってくれた私の対談集『ジャズ解体新書』(JICC出版局)でお相手してくださった佐藤允彦さんが、実にわかりやすくかつていねいに僕ら「聴き手ファン」にジャズの肝を語ってくださった。そういえば、つい最近読んだ、『すごいジャズには理由がある』(アルテスパブリッシング)も優れた「ジャズマンが語るジャズ本」の系譜に連なる傑作で、大阪在住ジャズマン、フィリップ・ストレンジさんと気鋭の音楽学者、岡田暁生さんの対話形式でジャズ演奏の楽理的側面がわかりやすく解説されている。

ドルフィーに話を戻せば、今回の講演はドルフィー・ファンの多くが魅せられる彼の音色の秘密を、彼がマルチ奏者であることに見ようとする優れた洞察。つまり、ドルフィーの個性的かつ魅力的なアルト・サウンドは、フルートやバスクラの演奏経験から生まれたものでは無いかというお二方の卓見だ。こうした視点は実際にそれらの楽器を吹いた経験が無ければわかりようが無い。

吉田さん、大谷さんは共にドルフィーの音色の秘密に迫ろうとさまざまな研究の末、こうした結論を得たわけで、そのたいせつなノウハウを惜しげもなく解説してくれる姿勢にはほんとうに頭が下がる。実際に音源をかけ、また、それらについて具体的かつわかりやすくお二方は説明してくれたので、私のように実際にアルト・サックスに触れたことも無い人間でも、「なるほど」と実感を持ってドルフィーの奏法の具体的内容が理解できた。

付け加えれば、同世代のお二方は共にジャズ界のディープなところに生息してらっしゃるだけに、「裏話」「余談」の面白さは筆舌に尽くしがたい。というか、あまり公に出来ないけど真実を穿った論壇風発。これを聞くだけでもイヴェント参加の価値はあるだろう。それを見越したのかお客様の入り、評判も上々。ありがたいことです。

吉田さんによるドルフィー特集の3回目がおおいに期待出来ると同時に、大谷さんが知られざるジョン・ルイスの秘密に迫るという興味深々たる講演を企画しておられることを知り、さっそくお願いする。『いーぐる連続講演』も実にさまざまな方々にお願いしてきたが、いよいよ「ミュージシャン自身が語るジャズ」という新しい局面を迎えたようで、これからが楽しみとなってきました。吉田さん、大谷さん、今後もよろしく!