10月11日(土)

前回の高橋政資さんによる「キューバ音楽事始め」に続いて、同じくラテン音楽に詳しい岡本郁生さんと伊藤嘉章さんによる今日のモンゴ・サンタマリアの特集は、たいへんありがたかった。高橋さんのキューバ音楽総論編に続いて、各論ともいえるモンゴの音楽を聴くと、いろいろと面白いことが見えてきた。

まず一番印象的だったのは、僕らジャズファンはコルトレーンの名演として耳に刻み付けられている《アフロ・ブルー》、初めてモンゴ・サンタマリアのオリジナル演奏を聴いてみると、まったく印象が違うのだ。もちろんどちらも名演なのだが、あたりまえだが曲そのものの魅力を生かしているのはモンゴ版。その理由は何といってもリズムの違いだろう。

今回聴かせていただいた音源の中にも、リズム・パターン以外はジャズそのものと言っていい演奏がたくさんあった。やはりジャズとラテンの違いはリズムの扱い方の違いが一番大きいような気がする。私はというと、どちらも好き。違うと言っても、両者共にダイナミックで生き生きとしており、そして私にとって心地良いという意味では同じなのだ。

モンゴに話を戻すと、この人はかなり特別な存在だと思った。つまり素人耳にも、単なるキューバン・ミュージシャンの一人とは思えない。つまりほんとうに多才なのである。非常にエスニックな演奏もあれば、ほとんどジャズに近いようなものも、また聴きようによってはフュージョンの先駆けのようなテイストの演奏まであるのだ。

「先駆け」と言えば、個人的に好きなイラケレの結成より早く、イラケレ的と言ってもいいような音楽をやっている。これには驚いた。それにしても、これほど有能で魅力的なミュージシャンが、私を含めたジャズファンにあまり知られていないのは不思議なようにも思ったが、ちょっとばかり想像がつくところもある。

それは彼の音楽が多彩なため、門外漢には一定のイメージで捉えにくいということがあるように思える。今回固め打ちで岡本さんに聴かせていただいて、なんとなくではあるけれど、多彩とは言え、やはりモンゴならではのテイストは感じられたが、これらの音源をバラバラで聴いたとしたら、ちょっとその辺りわからないのでは・・・

それから、これはかなり本質的な問題だと思うのだが、ジャズファンは一般的にジャズ以外の音楽に対して関心が薄かったり、一種の偏見を抱いているようなところがある。それも、年季の入ったコアなファンにその傾向が見られがちなのだ。

そしてもう一つ、日本の洋楽受容の問題がある。この問題はけっこう根が深く、ジャズにおいても日本独特の「聴かれ方」があるのだ。この話はかんたんに要約できないが、とりあえずその辺りをじっくりと解き明かすため、ラテン音楽に的を絞りちょっと面白い企画が打ち上げの席で持ち上がった。

それは日本における「ラテン歌謡」の問題である。僕らの世代もトリオ・ロス・パンチョスなど、後になってみれば「本場もの」とはずいぶんと趣の違った「ラテン感」を植えつけれているようなのだ。この辺りの込み入った事情を次回の講演で岡本さんに解き明かしていただこうというわけ。これは大いに楽しみである。岡本さん、よろしくお願いいたします。