11月15日(土)
ポール・デスモンドの位置付けは微妙なところがある。何と言ってもデイヴ・ブルーベックのサイドマンとして知られているので、無意識のうちにブルーベックがらみの評価になっているところがあるのだ。早い話、かつてTVCFにも使われた超有名曲《テイク・ファイヴ》が収録されたブルーベックの『タイム・アウト』(Columbia)の魅力も、半分以上はデスモンドの存在に負っているのだが、そのことはあまり言われないようだ。
反面、《テイク・ファイヴ》も含めたブルーベックがらみの一般的知名度が高すぎるため、かえって軽く見られたりもしている(昔気質のジャズファンの良くないところかも・・・)。そうした背景があるので、今日の山中さんのデスモンド特集もはたしてどれくらいの集客があるのか興味を持って見ていたのだが、予想に反し、非常に大勢のお客様がおいでになり、ちょっと驚いている。
二つ考えられる。一つは山中さんも言っていた「隠れデスモンドファン」の存在。もう一つは、いまどきのファン層はブルーベック人気も遠い昔のことで、あまりネガティヴにみる発想も無いのかもしれない。
実をいうと私も、別に「隠れ」てはいないけれど、けっこうデスモンドは好き。ブルーベック・カルテットにしても、彼のちょっとカタいリズムの難点をデスモンドの滑らかなアルトが救っている面が大きい。
正直、ブルーベックがアメリカにおいてジャズの普及に大きな力を発揮したことは高く評価するけれども、彼自身のピアノはさほど好みではない。アイデアは悪くないが、何と言ってもリズム感がガチ過ぎる。しかしそのある意味で「わかりやすい」リズムが、アメリカの白人聴衆にも理解された理由のようにも思える。こうしたジャズ大衆化への構図は、かつてのベニー・グッドマンの果たした役割にも似ているような気もする。
講演自体も大成功で、いまさらながらデスモンドの実力を再認識した。何と言ってもアドリブが凄い。ソフトな音色でしかもフレージングが滑らかなのですんなり聴けてしまうが、ちゃんと聴くとかなりスリリング。こうした特質はある意味でビル・エヴァンスにも似ているようにも思った。つまり、表層的に聴いても楽しめ、かつ、本気で聴き込むほどにその凄さが実感できるタイプという意味。
個人的にはブルーベックとのコンビでは初期の『ジャズ・アット・オバーリン』(Fantasy)と、後期に属する『アット・カーネギー・ホール』(Columbia)がずば抜けていると思った。また、ソロ活動期の演奏では、マリガンやジム・ホールとの相性の良さを再確認。また、これは昔から好きだった異色の顔合わせ、MJQとの共演も素晴らしい。
山中さんの解説も、ご自身トロンボーンを吹くミュージシャンなだけに、細部の解説が具体的で実にわかりやすい。また、トリビアでも興味深い話が多く、桜美林大学の「桜美林」はオバーリンのことだったとははじめて知りました。また、デスモンドが印税を寄付した話しなど、ヘーっと思いましたね。ジャズマンもいろいろなのだ。
ともあれ、集客も含め、お役様の評判も上々。また、私自身大いに勉強になった非常に良い講演でした。講演者のジャズに対する熱意は確実にファン、お客様に伝わるものですね。打ち上げも大いに盛り上がり、山中、(隠れデスモンド・ファンの)村井、そして私の3人はワインで完全に出来上がってしまいました。