11月29日(土)

荻原和也さんによる『ポップ・アフリカ800』(アルテスパブリッシング)刊行記念イヴェント、大盛況でした。新著の即売も極めて順調、あっという間に完売。もちろん講演の内容も素晴らしく、私のような「門外漢」にもアフリカ音楽の魅力が実にわかりやすく伝わってくる。

この本は5年ほど前に刊行された『ポップ・アフリカ700』の増補新版で、聞くところによると、品切れ旧著の中古本はアマゾンなどでとんでもない価格で取引されていたという。要するに、アフリカ音楽紹介本の定番とみなされていたということ。

私はアフリカ音楽には詳しくないけれど、荻原さんの「選考基準」を聞いてなるほどとうなずくことがあった。一般にアルバム紹介本は入手のしやすさを考慮するあまり、新譜や流通に乗りやすいアルバムを優先的に選ぶ傾向があるが、荻原さんはあくまで内容中心に選んだという。

ジャズとアフリカ音楽では事情が違うとは思うけれど、ジャズの紹介本でも新譜や入手しやすさを考慮したものは、意外と「長持ち」しない。長期に渡ってコンスタントに売れる本は、やはり演奏内容が良いものが選ばれている。当たり前といえば当たり前のことだけど、こうしたことが思いのほか考慮されていないようだ。

講演内容はアフリカを地域ごとにわけ、それぞれの音楽の特徴をていねいに説明してくれるので、ジャズ喫茶オヤジの私にもそれぞれの聴きどころがわかりやすく伝わってくる。何より選曲が良い。聴きながら思ったことは、アフリカン・ポップとジャズの聴きどころは深いところで共通点があるのではないかということ。

もちろん、「ジャズの故郷はアフリカ」といったわかりやすい意味ではない。実際、ジャズとアフリカン・ミュージックは人が思うほど似てはいないのだ。リズムも違うし、そもそも発想が異なっている。

それにも関わらず、私のような「ジャズ人間」が聴いてもその良さ、面白さがわかるのはいったいどうしてなのかと考えてみたら、思い当たることがあったのだ。それはやはり、違うとは言えリズムが聴きどころになっていることが大きい。とにかくすべての演奏のリズムが心地よいのだ。

そしてもうひとつ。ジャズファンはミュージシャンの個性を重視するが、そのことを言い換えると、楽器のサウンドからそのジャズマンの「声」が聴こえて来るかどうかというところに着目するような聴き方をしているのだが、アフリカ音楽もまさに声が聴きどころになっている。もちろんこちらは文字通り人の歌声だけれど、その力強さや表情の優劣の判断は、ジャズマンの出す音に対する評価に極めて近いように思える。

というわけで、表面的にはほとんど似ているとはいえない二つの音楽が、深いところで同じような価値基準で演奏されているのではないかと思ったのだ。もっとも最後に紹介されたピアノの演奏などは、ジャズとして聴いても非常にレベルが高かったことは言っておくべきだろう。

ともあれ、どうして私がアフリカン・ポップに惹かれるのかというナゾが、ちょっとばかり解けたような気がする素敵な講演でした。今後も折にふれ荻原さんの講演をお願いしたいと思う。