5月8日(金曜日)

佐藤英輔さんからの急なお誘いを受け、代官山のライヴ・ハウス『山羊にきく?』へ。出し物はノルウエイのピアノ・トリオ「スプラッシュガール」と邦楽のコラボレーション。これが素晴らしかった。当初は尺八と琵琶にピアノ・トリオって? と思ったが両者の想像を覆す素敵なインタープレイ、まさに「ライヴは観なけりゃわからん」でしたね。

一応メンバーをご紹介しておこう。


「スプラッシュガール」

ピアノ : アンドレアス・ステーンスラン・ローヴェ
ベース : ヨー・バルゲル・ミューレ
ドラムス・パーカッション : アンドレアス・ロンモー・クヌーツルー


特別ゲスト

尺八 : 原郷界山
琵琶 : 久保田晶子


のっけから尺八・琵琶の邦楽ムード、それに「スプラッシュガール」がていねいに寄り添っていくのだが、これが絶妙。単なる「バック」ではなく、きちんと自分たちの音楽を主張しつつも決してバランスを崩さない。どうやら即興らしいが、「スプラッシュガール」などというちょっと「軽め」なグループ名とは裏腹の高度な音楽性はただものではない。

また、邦楽陣も素晴らしく、時折琵琶の久保田さんが出す「唸り声」がピアノ・ベースと不思議なハーモニーを醸し出し、まさに異空間に遊ぶ境地。これはぜひ多くの方々に体験していただきたいと思った。とにかく聴いたことのない音の快楽でした。

その不思議、ゲストが退場し、ピアノ・トリオのみとなって一部が解明。しかしその「解明」自体が新発見だった。なんと北欧ミュージシャンたちが「グルーヴ」しているのだ。と言っても別にボビー・ティモンズやホレス・パーラン調の演奏というわけではなく、まっさらな現代ヨーロッパ・ジャズ。それがブラック・ピープルの専売特許的「グルーヴィー」な境地に到達している。こうした演奏は今まで聴いたことがなかった。

というか、だいぶ前から「はやり」のヨーロッパ・ピアノ・トリオにどうも全面的にノレ無かったのは、概して彼らの演奏はたんに「きれいきれい」で終わっていて、耳ざわりはいいのだけどあとになーんにも残らない。

それが、「スプラッシュガール」の演奏はピアノ、ベース、ドラムスの3者が完全に「ツボ」に嵌っており、大げさではなくエヴァンス、ラファロ、モチアンらの境地に到達しているのだ。曲がどうテクニックがこうではなく、聴き手も完全に彼らの音楽に嵌り込んでしまうのである。「ジャズ」演奏の究極の到達点と言ってもいい。

ライヴがあまりにも素晴らしかったので当然二人ではしご酒。1軒目は近間の渋谷「Li-Po」。周りを工事中のフェンスに囲まれつつもLi-Poは健在。私好みのイスラエル産白ワインを飲みつつ英輔さんと音楽話に花が咲く。

終電の時間を迎えつつも、2軒目は以前柳樂さんがやるD.J.を観に行った「バー・ミュージック」。こちらは若干「偵察」的目的もあったが深夜というのにほぼ満席。しかしその秘密はすぐに解った。何しろ選曲が素晴らしい。みな勝手におしゃべりしつつも間違いなく「いい音楽が流れている空間」を楽しんでいる。こうしたバーで聴くベッカ・スティーヴンスは最高ですね。他店のいいところは学ばねば、と思いつつ、英輔さんとの楽しい金曜日の夜は更けていきました。英輔さん、素敵なライヴに誘ってくれて、ありがとう! また、行こうね〜。