5月9日(土曜日)

「音楽夜噺」主宰の関口義人さんによる『ユダヤリテラシーアブラハムはディズニーランドの夢を見たか』(現代書館)刊行記念講演、非常に興味深いと同時に、私自身のジャズの聴き方にも大きな変化をもたらした。リー・コニッツの音楽の聴こえ方が違ってきたのだ。

と言うのも、当日さまざまな切り口から「ユダヤ音楽」の実例を聴かせていただいたのだが、その特徴と言えるものを念頭にユダヤ系ジャズマン、リー・コニッツの演奏を思い返してみると、いわゆるトリスターノ楽派とはまた違う背景が聴こえてきた。

当日知ったのだが、やはりユダヤ系ミュージシャン、ウォーン・マーシュと共演した名盤『コニッツ・ウィズ・マーシュ』(Atlantic)など、従来はトリスターノ派兄弟弟子の名演として聴いていたが、明らかに「ユダヤの音」。これは新発見。視点を変えると同じものが異なった相貌を見せるいい例だろう。

しかし音楽だけでなく、関口さんの「ユダヤ」についての話は私にとって新発見がたくさんあった。たとえば「ユダヤイスラエルは違う」というのも初耳だったし、実は熱心なユダヤ教徒は少ないとか、今アメリカで問題視されている「ユダヤ・ロビー」と言われているものの内実も、あまりユダヤ教徒とは関係ないということなど、「なるほど」と思うところがある。

この辺り、冒頭の新著をこれからゆっくりと読むことでいろいろと詳細が明らかになるだろう。大いに楽しみである。ともあれ、関口さんの知的好奇心は凄まじいもので、ちょっと前まではジプシー音楽を追いかけていたかと思うと、今度はユダヤ・ミュージック。しかし当日の講演でそれらが決して場当たり的なものではなく、大きく「移民問題」というテーマに収斂して行くという説明、大いに納得させられました。

ところで最後にお客様から梅津和時のクレズマーについて質問が出たが、私の記憶ではジョン・ゾーンの方が早くからクレズマーを演奏していたと思うと言ったけれど、改めて調べてみるとやはりジョンの方が早い。彼が『クリスタルナハト』を出したのは1992年、それに対し梅津さんが「ベツニ・ナンモ・クレズマー」で『おめでと』を出したのは1994年だった。この辺の事情、さほど詳しいわけではないので間違っていたらご一報ください。訂正いたします。

ともあれ、音楽とその文化背景の問題は、現代ジャズを考える上でも避けて通ることは出来ない。6月6日に行われる『モダン・ジャズ革命』(シンコー・ミュージック・ムック刊)刊行記念イヴェントも、おそらくそのあたりの問題が俎上に乗せられるのではなかろうか。大いに楽しみだ。また、だいぶ先だけど8月29日開催のおおしまゆたかさんによる「イスラームの音楽」も、今回の関口さんの講演と対となる視点が提供されるのではなかろうか。これまた大いに楽しみ。関口さん、今後もよろしく!