【BYG】  【カニサレス】  【Blue Note Jazz Fesatival】


9月26日(土) 【BYG】

須藤輝さんと吉田隆一さんによる「BYG特集」、期待通り興味深いものだった。このレーベルは「いーぐる」開店直後の1969年に録音が集中しており、私も当時ずいぶん購入したが、率直に言って「玉石混交」。「玉盤」は当時のアヴァンギャルド・シーンを切り取る貴重な証言だが、他方、とりあえず録音してみましたというような作品もかなり多い。そのあたりの事情をこの手のレーベルを語らしたら第一人者、須藤輝さんがオリジナルアルバムを大量に所有する強みを背景に、ていねいに説明してくれた。これはたいへんありがたかった。

ひとことで要約すると、このレーベルの意義は歴史の証言というところにあると思う。1960年代後半、ロックの台頭によってアメリカにおけるジャズ・ミュージシャンが苦境に追い込まれ、とりわけアヴァンギャルド派は本国での活動が困難となり、ヨーロッパへと活動拠点を移す動きが活発化する。そうした時代状況を1969年という時点でBYGレーベルは大量の録音記録によって資料化しているのだ。

もちろんそれだけではなく、当時僕らにも良くわからなかった地元フランスのB級サイケ・プログレ実験音楽なども須藤さんはきちんと収集しておられ、その辺りの「時代感」がリアルに伝わってくる。

また、須藤さんの講演は現在第一線で活躍されている吉田隆一さん(新垣さんとのデュオ「N / Y」は傑作です)という素敵な「相方」がおられ、その吉田さんの演奏家としての「奏法解説」から見た視点が実に新鮮なのだ。これは本当にありがたい。

個人的に大好きなトランペッター、ドン・チェリーの奏法を「ヘタに見えるが実は巧いのだ」と喝破されるところなど、まさにわが意を得たりの感強し。他にもA.E.O.C.で本当に楽器が巧いのはマラカイ・フェイヴァースぐらいという卓見も、私の見立てどおり。また、吉田さんの好みを超えた中立かつ暖かいミュージシャンに対する評言は、いつ聞いても大いに啓発される。

このように収穫多大な講演で、打ち上げでいろいろお話を聞きたかったのだが、当日は夕方からこれもぜひ聴いてみたかったカニサレスの公演があって、やむなく講演終了直後に現場離脱。須藤さん、吉田さん、申し訳ありませんでした! しかし、お二方の講演はまたお願いいたします。次回の候補はFMPかな。


カニサレス

以前「いーぐる」で行われた林田直樹さんによる実にわかりやすいカニサレス紹介イヴェントでいっぺんでカニサレスに魅了された私は、今回のカニサレス新日本フィル公演は大いに楽しみにしていたのだった。そういう事情があったので、須藤さん吉田さんには失礼を承知で打ち上げを中座し、彼らの公演に駆けつける。

これもまた期待以上の素晴らしさ。何と言っても凄かったのはフラメンコ・ダンサーの存在。前回の紹介イヴェントでも、林田さんがていねいに説明されていたが、どうやらこうした世界で言う「カルテット」にはダンサーもふくまれているようなのだ。

ちなみに林田さんのいーぐる連続講演予定は下記の通りです。


● 第573回 11月21日(土) 午後3時30分より 参加費600円+飲食代
ジャンル横断的クラシック音楽講座(1)
『編曲で作品は何倍も面白くなる〜バッハを中心に』  解説 林田直樹


カニサレスのギターの素晴らしさは言うまでも無いのだけど、それが男女二人のフラメンコ・ダンサーの見事な踊りと合わさるとその魅力は倍増する。また、今回始めてダンサーたちが行う手拍子というか拍手の凄さに驚嘆したのだった。いったいどうしたら、たった二人の手拍子であれほど複雑で小気味よいリズムが生み出されるのか! 何度観ても聴いてもその秘密は謎だったが、ともあれこればかりは実際に観て、聴いてみない事にはわからない。そういう意味でも今回の公演は貴重な体験だった。

率直に言って新日本フィルの演奏は、林田さん紹介イベントの際のベルリン・フィルのDVDの凄みには及ばないのだけれど、それでもクラシックの「ナマ音」の魅力は100%伝わってきた。ジャズでも突き詰めると「音」の魅力に行き着くのだが、クラシックでは私のような門外漢でも、あの空間でさまざまな楽器が混ざり合って生まれる「サウンド」の魅力には一発で魅了されてしまう。クラシックファンが高いお金を払って実際の公演に駆けつける心境が良くわかった。私も老後の楽しみはクラシックナマ音体験だ!

ともあれ、こうした素敵な公演を繰り返し行っている招聘元、プランクトンさん、ありがとうございました!


9月27日(日曜日)   【Blue Note Jazz Festivaru】

「BYG」も「カニサレス」も良かったが、それ以上に意義深かったのがブルーノート・ジャズ・フェスティヴァル。初めてのブルーノート・ジャパンによる横浜における大規模屋外ジャズフェスということで、天候のことも含め、期待と不安が入り混じった気持ちで横浜に向かったが、一歩会場に足を踏み入れた瞬間、その懸念は吹っ飛んだ。

最初のステージはハイエイタス・カイヨーテ。この手のバンドには不案内で、初めてライヴに接したのだが、これがいい。女性ヴォーカリストが魅力的。最初はどんな感じかと様子を見るうち次第に演奏・歌唱に熱が入り、知らぬ間にこちらも彼らの世界に巻き込まれる。

また、会場の雰囲気もいい。若いカップルや子ども連れ夫婦など、従来のジャズフェスには見られないカジュアルな客層が、僕らジジイ・ジャズファンにとってはとても新鮮。最初「立ち見」はちょっとキツいかとも思ったが、カイヨーテのようなバンドは座席で落ち着いてみるより立ち見が正解。

他にも広い会場内を自由に歩きまわれるので、演奏を聴きつつ知り合いたちと交歓出来るメリットは大きい。今回も顔の広い柳樂さんの紹介でDJ界の大物、沖野修也さんを紹介されるなど、スタンディングの効用は思いのほか大きい。また、飲み物コーナー、食べ物コーナーも充実しており、屋外フェスの楽しみである芝生に寝転んで缶ビールを飲む快楽も堪能させていただいた。

次のステージはパット・メセニーエリック・ミヤシロ指揮するブルーノート・トーキョー・オールスター・ジャズオーケストラによる、エバーハート・ウェーバーに捧げる演奏。これは先日「いーぐる新譜紹介イヴェント」でユニバーサルの斉藤さんにご紹介いただいたばかりでそのライヴ版が聴けるのがありがたい。

他にもグラスパーのピアノトリオやスナーキィ・パピーの変化に富んだバンドなど見どころ満載で、長丁場にも関わらず飽きることが無い。そして目玉はジェフ・ベック。特にロックファンというわけではないのでとりわけ期待したわけではないが、やはり年季の入ったロッカーのステージは魅力的。

それにしても、日が暮れるに連れステージ脇に上がる十五夜満月を背景に眺めるロックというのも実にシュール。とにかくこの赤レンガ倉庫に隣接した屋外ステージのロケーションは最高。かつてのマウント・フジ・ジャズフェスも素晴らしかったが、このヨコハマ・ジャズ・フェスはステージのすぐ横に海上保安庁の大型巡視艇が停泊していたり、その反対側には歴史的赤レンガ倉庫の建物が立ち並んでいたりと、デートコースとしては最適なのではなかろうか。

最後に業界的な感想だけど、こうしたジャズフェスの効用は、さまざまなジャンルの音楽ファンがフェスティヴァルという場で混ざり合い、未知の音楽に出会い、また素敵な音楽友達に巡りあえる所にあると思う。こうしたことは単にジャズ界だけではなく、いろいろ危機が語られる日本の音楽業界にとっても非常に意義深い試みで、それが今回大成功したことの意味合いはとても大きいと思う。

それにつけても集客や天候のことなど、非常にリスキーな企画を勇気を持って断行したブルーノート・トーキョーのスタッフの方々の英断には心から拍手を送りたい。今後このジャズフェスが順調に回を重ねるよう祈ると同時に、及ばずながら出来る限りの応援をしたいと思いました。

佐々木香奈子さん、お疲れ様でした! ありがとうございました!