【「50年のジャズ・アルバム・ベスト100」が面白い】

 

 

現在発売中の『ミュージック・マガジン』に「50年のジャズ・アルバム・ベスト100」という記事が掲載され、各方面から話題を呼んでいるようです。この企画は、37人の音楽関係者が1969年以降2019年に至る、50年間に限定したジャズ・アルバム・ベスト30枚を選出し、それを編集部が集計しベスト100を選出したものです。そしてその結果について村井康司さんと柳楽光隆さんがたいへん興味深い対談を行っています。

 

選出された「ベスト100」や対談は『ミュージック・マガジン』をご覧いただくとして、たまたま私もその元となるベスト30選出に参加しているので、私のセレクトをご紹介しつつ、選定結果、選定過程に対して感想を述べてみます。なお冒頭の数字は私の順位で、アルバムの後ろの数字は「ベスト100」の順位を表しています。

 

 

後藤雅洋の選んだ1969~2019「ジャズ・ベスト30アルバム」(ミュージック・マガジン選ベスト100順位)

 

1

Miles Davis

Agharta

21

 

2

Ornette Coleman

Dancing in Your Head

1

 

3

Joe Zawinul

My People

94

 

4

Keith Jarrett

Standerds Vol.1

32

 

5

Chick Corea

Piano Improvisation Vol.1

 

 

6

Charles Mingus

Cumbia & Jazz Fusion

73

 

7

Wayne Shorter

Odyssey of Iska

 

 

8

Herbie Hancock

Directstepp

 

 

9

Weather Report

Sweetnighter

67

 

10

Gil Evans

Priestess

 

 

11

Stan Getz

People Time

86

 

12

Roland Kirk

Kirkatron

 

 

13

Pat Metheny

Trvels

 

 

14

Charlie Haden

The Ballad Of The Fallen

 

 

15

Michael Petrucciani

Michael Petrucciani

 

 

16

Paul Motian

Garden of Eden

 

 

17

Kamashi Washington

Heaven and Earth

 

 

18

Kip Hanrahan

Tenderness

 

 

19

Joni Mitchell

Shadows and Light

19

 

20

Steve Coleman

Sine Die

 

 

21

James Blood Ulmer

Are You Glad To Be In America?

6

 

22

Bill Frisell

Blues Dream

 

 

23

Egberto Gismonti

Danca Das Cabecas

 

 

24

Kurt Rosenwinkel

Caipi

 

 

25

John Scofield

Quiet

 

 

26

Henry Threadgill

Too Match Sugar For A Dime

 

 

27

Henri Texier

Mad Nomad

 

 

28

Brad Mehldau

Art of Trio 4

 

 

29

Maria Schneider

Concert in the Garden

 

 

30

Go Go Penguin

Man Made Object

 

 

 

 

結果として私が選んだ30枚のうち9枚、つまりちょうど30%が「ベスト100」に入り、それ以外は選外ということです。「連帯率」30%ですね。この結果はたいへん面白いと思います。というのも、37名の選者の顔ぶれを眺めると、ジャズを専門とする音楽関係者はおよそ30%ほどで、奇しくも私のセレクトの「ベスト100」に対する「連帯率」とほぼ一致しているのです。

 

そのほかの方々はロック、ポップス、ワールドミュージック等、それぞれの音楽ジャンルの専門家なのですね。つまり3分の2ほどは音楽のプロフェッショナルが「外から」ジャズを眺めた結果が反映されていると見ることが出来るでしょう。

 

仮にジャズ関係者のみで同様の試みを行ったとしたら、「連帯率」は少なくとも50%は超えるであろうと想像できることから、この企画を否定的に見る方は少なくないようです。例えば、原雅明さんはツイッターで次のように呟いていました。

 

 

>>「50年のジャズ・アルバム・ベスト100」にも参加してますが、エレクトロニック・ミュージックの時に続いて、微妙な気持ちですね。やっぱり合評でランキング決めるのが無理なんでしょう。個々のランキングとそれぞれのベスト1か特に書きたい作品の選評が載ってるので充分じゃないかと思います。

 

 

この原さんのご意見には私も同感です。つまり、あまりにも多様な価値観で選ばれたものを単純に集計したため、肝心の「ジャズ」という視点がぼやけてしまっているという批判ですね。

 

また、村井・柳楽の対談内容もこの企画を単純に「よいしょ」しているわけではなく。例えば、柳楽さんは冒頭で「中村とうようが降臨している」「日本の音楽ライターのジャズ観が30年間更新されていない」と辛口の皮肉を飛ばし、それに対し村井さんが一生懸命「客観性」を保とうとしているように見え、お二方とも友人なので実に面白く読めました。

 

私はというと、若干の留保付きではありますがこの企画を比較的高く評価しています。その第一の理由は、たまたま『ミュージック・マガジン』創刊時以降という企画意図だったとは思うのですが、選考基準を1969年以降としたところなのですね。

 

ある程度ジャズ史的知識があれば、「それじゃあ、ジャズの黄金時代である『モダン期』が完全に抜けちゃうじゃないか!」という至極当然な批判が予想されますよね。にもかかわらず「評価」するのは、なまじジャズに詳しい方々があまりにも「モダンジャズ史観」に影響され過ぎており、その当然の結果として「現代ジャズ」が理解しがたいものになっているように思えるからです。

 

つまり現代ジャズシーンが明らかに活性化しているにも関わらず「あれはジャズじゃない」という、まさに1960年代風な「切り捨て」傾向がベテラン・ジャズファンの間には根強く残っているのですね。それはこうした方々が無意識のうちに“ジャズ”を“モダンジャズ”を典型として捉えているからじゃないか、というのが私の見立てなのです。この件については、現在【「ジャズ評論」についての雑感】という連載記事で触れているので参照していただければと思います。

 

こうした風潮の中で、「たまたま」とは言え、まさに「モダンジャズ終焉期」である1969年を起点とした今回のアンケート企画は、「全ジャズ史」の重要な「欠落期間」とも思える1969年以降のジャズ史に光を当てるきっかけとなりうる試みだと私は捉えたのです。

 

留保つきと言うのは、原さんのおっしゃるように「個々のランキングとそれぞれのベスト1か特に書きたい作品の選評が載ってるので充分じゃないかと思います。」という意見に同感で、私は個々の選者の方々がどういったセレクトをしているのかたいへん興味があったのですが、何しろ活字が細かすぎとうてい読む気になれないのですね。

 

どなたかボランティアであの37名の方々のアルバム・リスト、読める大きさに打ち直して一般公開してくれませんかね。あれはジャズ史的にたいへん大きな価値がある資料だと私は思います。