【『ミュージック・マガジン』50年ベスト100アルバム~雑感の2】

 

 

ミュージック・マガジン』50年ベスト100アルバムについて、ツイッターで原さんが私宛の私信について言及したり、アンケート結果に対する柳楽さんの批判的反応など、各方面の反響が続いているようなので、前回書き忘れたことなど追加してみようと思います。まずは原さんの私信ですが、ジャズ・インサイダーのセレクトとアウトサイダーの票を混ぜて単純に合計しても、あまり意味がないんじゃないかという主旨を私に伝えて来ました。

 

この原さんの意見には私も同感です。例えばアメリカのジャズ雑誌には、ジャズマン・ランキングとしてジャズ評論家による「クリティック・ポール」と、一般ジャズ・ファンの人気投票の結果がそれぞれ発表されていましたが、それを眺めれば、アメリカのジャズ状況の一端が浮かび上がってきたものです。

 

大まかに言えばクリティック・ポールは芸術作品としての評価、ファン投票は大衆的人気でしょうか。大衆音楽でもあり、芸術的側面もある特殊な音楽である“ジャズ”について、双方の視点が重要なのですね。ですから、単純に両者の得票を合算してしまっては、それぞれ固有の「意味」が希薄になってしまいます。

 

ですから今回のケースでも、ジャズ専門家のベスト100とそれ以外の音楽ジャンルの専門家の方々の票を分けて集計すれば、それなりに面白いジャズ・シーンの見取り図が浮かび上がるのではないかと思いました。誤解を避けるために付け加えれば、インサイダー評価が正しく、アウトは見当違いといういうような単純な話ではなく、両者の選択基準は異なっているであろうという、妥当な推論を基にした判断です。

 

また、柳楽さんがノートでご自身の選考基準をかなり詳しく解説したりもしているので、私も個人30リストの選考基準について(リストは前回のブログ記事をご覧ください)簡単に触れてみようと思います。

 

今回の選考条件である1969年以降現在に至るアルバムを、私は新譜としてジャズ喫茶でファンと共に聴いて来たので、セレクト自体たいへん思い出深く楽しいものでした。とは言え、単純に当時を振り返ったわけではなく、その後のファン、評論家双方の評価の変遷を勘案した上で、2019年現在の私なりの判断で選んでいます。つまり、現在のシーンを前提としたセレクトということですね。言い換えれば、現在のジャズ状況を理解するための「全ジャズ史的読解」に必要なアルバムを中心としたセレクトと言ってもいいでしょう。

 

「全ジャズ史的な理解」という観点で重要なのは「ミュージシャン中心のセレクト」です。別の言い方をすれば、現在のジャズシーン理解に繋がる人物さえ押さえておけば、そのミュージシャのアルバムなら何を選んでもさほど大きな問題は無かろうというのが、私の考えです。個別作品にはこだわらない。

 

まず、モダン期終焉以降のキーパーソンで、なおかつ全ジャズ史的に見ても重要なジャズ・ミュージシャンという意味で、マイルスは外せません。極論すれば、“エレクトリック・マイルス”なら何でも良かったのですが、大阪公演ライヴを収録した『アガルタ』がアルバムとしてのまとまり、一貫性という点でわかりやすいと思って1位にしました。マガジン・ベスト100では21位でしたが、他の選者の方々もマイルスのアルバムを多数セレクトされており、仮に「ミュージシャン得票」という視点でそれらを合算すれば、相当上位に来るのは間違いなく、ここは順当な結果でしょう。

 

意外であると同時に我が意を得たりだったのがオーネット『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』の堂々1位ですね。私も個人リスト2位に入れているので、これは大いに納得です。選考理由は、ジャズの醍醐味である「聴き手の感受性を変革させてしまうパワー」が圧倒的だからです。

 

問題は、私が3位に入れたザヴィヌル『マイ・ピープル』です。決して奇をてらったわけではなく、ちゃんとした選考理由はあるのですが、それでも内心「選外」でもやむを得ずと考えていたのが、ギリギリ94位に入選。これも嬉しかったですね。選考理由は、デューク・エリントンに端を発する「サウンドとしてのジャズ」の発展形として「ウェザー・リポート」があり、そこに「融合音楽としてのジャズ」という、これまたジャズにおける歴史的発想を絡めた結果が、『マイ・ピープル』であるという私なりの認識です。

 

つまり、外見上はかなりオーソドックスなジャズから距離がありますが、ザヴィヌルのジャズ歴を振り返ってみれば、彼なりの明確なジャズ観がこのアルバムに結集していると私は見ているのです。付け加えれば、現代ジャズに顕著なヴォーカル、ヴォイスの効果的使用という意味でも、このアルバムは現代ジャズに通じる側面があると私は考えています。

 

以下、外せないミュージシャンとして、キース、チック、ハンコック、ショーター等、お馴染みの面々を適宜セレクトしましたが、そうしたミュージシャンも選ばれたアルバムこそ異なれど、ほとんどがベスト100に顔をそろえており、そうした意味では順当な結果と私は観ています。

 

一例を挙げれば、マガジン3位はヘイデン『リベレーション・ミュージック・オーケストラ』ですが、私はその後に出たヘイデン『The Ballad Of The Fallen』を14位に挙げています。ヘイデンの作品としては有名な前者より後者の方がアルバムとしての完成度は高いと思いますが、「名前が挙がれば良し」というスタンスなので、その辺りはあまりこだわりません。

 

ただ、ヘイデンがマイルスより上位という結果を、あまりジャズに詳しくない一般読者がうのみにしてしまったら、それこそ柳楽さんが慨嘆しておられる「マガジンの偏向」という言い文が説得力を持ってしまいそうですよね。そこは少々問題かな。

 

同じことはカサンドラの4位にも言えそうで、「いくら何でも彼女がマイルスより上ってのはおかしいんじゃない」という声が聞こえて来そうです。この辺は「単純合算の弊害」でしょうかね。

 

現代シーン中心に見た場合、カマシ『The Epic』がマガジン16位に入っているのは納得です。私はカマシ最新作ということで『Heaven And Earth』を17位に入れていますが、もちろん『The Epic』でもまったくOK。また順位の感覚も妥当です。

 

最後に「マガジン・ベスト100」の眼に見える問題点を挙げておくと、柳楽さんの「聴いていない人が投票している」という超辛口批判が説得力を持ってしまいそうなのが、ポール・モチアンが選外となってしまったことでしょう。現代シーンへの影響力ということでは、むしろエヴァンスよりモチアンの方が大きいということは、この際言っておきたいですね。ちなみに私は彼の『Garden Of Eden』を16位に入れています。