6月27日(土)
シナトラやロージーなどをフルコースで聴くのもじつに勉強になるけれど、今回のようにベイシー・バンドと共演という切り口でさまざまなヴォーカリストをアラカルトで聴くのは、思いのほか楽しい体験だった。
まず、いろいろな歌手を同じような条件で聴くことで、彼らの実力、私の個人的好みが良く見えた。思いつくまま挙げれば、ホリデイのずば抜けた存在感、ビリー・エクスタインの声の魅力、エンターティナーとしてのシナトラ一家の凄みなど、当たり前といえば当たり前のことが「やっぱりね」と実感できたのだ。
意外だったのは、江利チエミのジャズ歌手としての実力で、エラをよく聴いているんだなあということが良くわかった。こういう珍しいアルバムも、今回のようなチャンスが無ければ聴くことはなかっただろう。
まあ、映像の力もあって、本当に楽しめた講演だったが、そうかといって発見が無いわけではない。三具さんが、ベイシー・バンドに一番合う歌手はエラで、エリントンはサラだと、チラリと触れた説明に対し、最後にお客様から「どうして?」という質問があり、私もなんとなくわかるけれど、改めて理由を聞かれたらどう答えるのかなあと思っていたら、どちらかというと重厚なサウンドのエリントン・バンドだと、声を器楽的に使うサラで無ければ対抗できないという解説に、そうだよね、と実に納得したのだった。
また、軽快でスインギーなベイシーには、似た体質のエラが合うというのは言うまでもない。そしてサミー・デイヴィス、ディーン・マーティンを引き連れたシナトラ一家の映像を見れば、アメリカン・ショービジネスの懐の深さがいやというほど伝わってくる。
なんというか、三具さんとしては気軽に組んだプログラムのようだが、とにかく引出しに詰まっているものの密度が猛烈に高いから、なにげな発言が実に含蓄に富んでいるのだ。三具さん、ほんとうに贅沢な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます。