2004-01-01から1年間の記事一覧

think17 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第17回

この不定期連載も17回目を迎え、気長にお付き合いいただいてきた数少ない読者の方々には、だいたい問題の所在がご理解いただけたことと思う。だが今まで私が述べてきたことは、心ある人々にとっては言わば常識であって、取り立てて目新しい事実は一つもない…

think16 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第16回

芸術活動を意味あるものにするには、作家のみならず享受者にも責任があるといったが、そのことをもう少し考えてみよう。そのために、ちょっと唐突かもしれないけれど「民主主義」についておさらいしてみたい。 みんな、民主主義には「直接民主主義」と「間接…

think15 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第15回

人の感覚を拡張、深化させるものが芸術であるという、私流定義に従ってルイ・アームストロングの演奏を聴いてみれば、まさに彼の音楽は芸術であった。しかしそのことを理解するに至るには、根源的なジレンマが横たわっていることを見逃してはならないだろう…

think14 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第14回

ところでジャズを芸術音楽としての視点から眺めてみるという作業の前に、ちょっとした下ごしらえが必要だと思う。それはジャズとポピュラー音楽の関係だ。あるいは、ジャズは果たしてポピュラー音楽であるのか、という設問に置き換えても良いだろう。これは…

think13 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第13回

仮に、人間の感覚を拡張し、深化させるものを芸術であると定義してみよう。言うまでも無くこんな内包は大きすぎて、余計な外延を大量に呼び込んでしまう。マリファナだってヘロインだって芸術だということになりかねない。もちろんそんな俗受け狙いの主張を…

think12 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第12回

前回、ありがちな誤解を防ぐために、とりあえず自分のパーカー体験は知的理解ではないと言ったが、ここまでの連載を通読していただいた皆様には、もう少し本質的な話をしてもよいだろう。より深いレベルで考察すれば、数学の問題が解けるということも、ある…

think11 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第11回 

さていよいよこの考察の主たる目的「ジャズが分かる」とはどういうことか、自分自身のパーカー体験に基づいて考えてみることにしよう。まず私が初めてパーカーを耳にしたのは20歳、ジャズ喫茶をはじめたときと時を同じくしている。すでに他の本で書いたこと…

think10 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第10回

近頃はやりの「複雑系」とやらに挑戦してみようと思い、「自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法則」(スチュワート・カウフマン著、日本経済新聞社刊)を読んでいたら、非常に面白い記述にぶつかった。 生命発生の重要な謎である、高分子化合物がな…

think09 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第9回

よく人は音楽との出会いを神秘めかして語りがちだが、それは思い込みに過ぎない。もっともその思い込みにはそれなりの理由がある。まず、人は自分が属する文化全体を外から眺めることは難しい。また、自分が属する時代を客観的に把握することも困難だ。つま…

think08 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第8回

私がビートルズの音楽を一瞬にして「理解」できたということ。あえて理解という言い方をしたが、その理由をこの連載を読まれた方なら“理解”していただけるだろう。われわれは音楽にしろ絵画にしろ、〈感覚〉的対象から感動なり好感なりといったものを受け取…

think07 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第7回

この連載の最初に話したことを思い出していただきたいのだが、私がジャズを聴き始めたころの素朴な疑問として、「仮に感覚が万人共通ならすべての人がパーカーに感動するはずなのにそういう兆候はない。また、一人の人間の感覚が常に同じなら、今まで単なる…

think06 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第6回

虹の知覚が文化圏によって2色から7色までの幅があるという事実は、〈感覚〉の普遍性を否定している。つまり、当初の疑問のひとつ〈感覚〉は万人共通か? の回答は得られた。そこで次の疑問〈感覚〉は変化するのか? ということを考えてみよう。 19世紀の終…

think05 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第5回

かつてデューク・エリントンは、「音楽には良い音楽と悪い音楽しかない」という意味のことを言った。出典を確認していないのでどういう状況での発言かわからないが、恐らくクラシック音楽など伝統のある音楽ジャンルに比べ、まだ新興音楽だったジャズへの偏…

think04 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第4回 

私がこの考察で目指しているのは、たとえば、「メアリー・ジェーン」のマスターは「良い耳」をしている、だとか、有名なジャズ喫茶のオヤジがやたらホメているアルバムを買ってみたけれど、3日で下取りに出してしまった、というようなジャズ・ファンの日常会…

think03 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第3回

今エンピツで白い紙の上に長さ10センチの直線を描いてみる。これを直線Aとする。次にその下に同じく長さ10センチの直線を引き、これを直線Bと名づける。上からこれを眺めれば当然同じ長さに見える。 次に直線Aの両端から、長さ2センチほどの線を二本書き加…

think02 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第2回

まずもって僕らが使う日常会話を思い起こしてみよう。「あいつはいい感覚している」「彼女のセンスは抜群だ」、などというとき僕らは何を意味しているのか。それはたとえば、友人の音楽の好みがカッコ良いとか、TVに出てくるモデル上がりの女優さんの服装…

think01 -- ジャズを聴くことについての原理的考察 第1回

ジャズ喫茶という仕事を40年近く続けてきた。その経験を元に、ジャズを聴くということ、そしてジャズから感動を受けるということを少し厳密に考えてみようと思う。もちろん、こんなことはジャズを聴く上で特に役に立つわけではない。しかし、ジャズに対する…