12月1日(土)

ほんとうに音楽が好きな方のお話は聞いているだけで気持ちがいい。瀬川先生のギル・エヴァンス講演、ギルの音楽に対する強い関心と愛着がことばの端々からうかがえる素晴らしいものだった。そして、瀬川先生の膨大な知識、経験を巧みに引き出した村井さんの存在も大きかった。

ご存知のように村井さんは自身、“スィンギン・ココナッツ”という素敵なアマチュア・ビッグバンドのリーダーでもあり、バンド・サウンドの妙を知り尽くし、《イレヴン》など複雑なギルの曲目も取り上げ、見事に仕上げている。だから、瀬川先生と話がうまくかみ合うのだ。

それにしても、ぼくらより一世代上の瀬川先生の音楽的好奇心の強さには驚かされる。すべてに前向きで、しかも話が現在進行形なのだ。当日も「ネクスト・ゼネレーション」というコーナーで、もうすぐ来日公演を行うマリア・シュナイダーはじめ、狭間美帆など、現役ミュージシャンの演奏も詳しく紹介するなど、現在のジャズシーンに対して積極的にかかわってらっしゃる。

面白かったのは、ぼくらも知っている都並さんの立教時代の演奏が披露されたことだった。お世辞抜きにうまい。1980年のプライベート・テープだが、瀬川先生はこの頃からアマチュア・ビッグバンドの世話をされてきたのである。

今回改めて時代を追ってギルの音楽を聴いて思ったことは、ギルの音楽の想像以上の先鋭的性格だった。こうした音楽が受け入れられるには、やはり若干のタイムラグが生じるのもやむを得ないと思うと同時に、はるか昔、クロード・ソーンヒルの時代からギルの存在に注目されていた瀬川先生の先見性に驚かされたのだった。

当然のごとく打ち上げも弾み、ビッグバンドの話題、最近のミュージシャンたちについてなど、ジャズがらみの話が尽きなかった。それにしても、親子以上に歳の離れた柳樂さんたちの世代が、瀬川先生の音楽体験やギルの音楽に関心を持ってくれることは実に心強い。

音楽文化は、こうした世代を超えた紐帯によって受け継がれていくことを今日ほど実感したことは無い。瀬川先生には来年もまた素晴らしい講演をお願いしたいと願っている。