4月19日(土)

今日も濃密な一日であった。午後1時から3時まで朝日カルチャーセンターの講座、4時からは林さんによるナット・キング・コール特集インストゥルメンタル編。そして、夜8時からは新宿タワーレコードで、菊地さんと中山さんのトーク・イヴェント観戦。
4月から始まったカルチャーセンターは、新規のお客様が増え、総計18名。特に、先週のハンク・モブレイ特集打ち上げに加わってくれたKさんが参加してくれたのは嬉しい。今まで、カルチャーセンターの生徒さんがいーぐる連続講演の常連さんになってくれたケースは数限りなくあるが、その逆はあまりなかったのだ。
今回のテーマは「ジャズ喫茶の名盤」。その第1回はアナログ盤B面に潜むビッグ・ネームの隠れ好演ということで、キャノンボール『サムシン・エルス』(Blue Note)から《サムシン・エルス》などをご紹介。
ポピュラー歌手として知られたナット・キング・コールが、優れたジャズ・ヴォーカリストであると同時に、実はジャズ・ピアニストでもあったということは、熱心なファンならご存知かもしれないが、現在の平均的ジャズファンにとってはこの事実自体があまり知られていない。
だから、まずジャズ・ピアニストとしてのキング・コールの魅力、特徴をわかりやすく一般ファンに解説することが望まれる。だが、林さんはこの1年、朝日のジャズネットでジャズマンの系譜を連載されていた経験を生かし、バップ・ピアノ誕生にまつわるミッシング・リングの位置にキング・コールを擬し、さまざまな音源を渉猟した成果を発表された。
だが、この試みはいささか中途半端に終わったように思える。キング・コールの“他のピアニストにはない”個性、魅力とは何かという説明が、いまひとつ明快さを欠いていたように思えたからだ。また、この講演のもう一つの目的である、バド・パウエルがキング・コールの影響を受けていると称する音源も、そういわれればそうかもしれないという程度で、従来言われていたアート・テイタムアール・ハインズらの影響度に比べれば言うまでもなく、当日参考音源としてかけたビリー・カイルの影響に比べてもはるかに微々たるものとしか、私の耳には聴こえなかった。
そして、ビル・エヴァンスの少年期の演奏がキング・コールの影響下にあるという指摘も、そうだとしても、その事実が後年のスタイルを確立させてからのエヴァンスの音楽に具体的にどうのように作用しているのかというわかりやすい説明がなかったように思える。
林さんは、ご自身が何時間もかけ注意を集中して聴いた研究結果を発表なさったのだろうが、それを聴かせられる私たちにとっては初めての体験であるというところを読み損なっている。要するに、あまりにも濃すぎる内容を詰め込みすぎたのではなかろうか。好意的に解釈すれば、聴き手のレベルを高く見積もりすぎているとも言えるが、やはり結果として説明不足だったように思えた。少なくとも私には、キング・コールの、他のピアニストにはない個性というものが、林さんの、“流麗なライン云々”という説明からは伝わってこなかった。
だが、その疑問は、打ち上げの席で三具さんが言ったひとことで解消した。三具さんは、ピアニストとしてのキング・コールの魅力は、小粋なところだと教えてくれたのだ。つまり、こういう言い方のほうが私にとってはわかりやすいのである。
新宿タワーレコードでの菊地成孔さん、大谷能生さん、中山康樹さんのトーク・イヴェントは大盛況。皆さん方の人気のほどが知れる。中身も実に面白く、一緒に聞いていた、村井さん、八田さんらと大爆笑の連続。それにしても、菊地さんの良い意味でのサービス精神には感心させられた。こうした催しを通して、マイルスに対する関心、ジャズに対する興味を多くの方々がもってくれれば、実にありがたいことだ。
その後、中山さん、「ナカ読め!」管理人、比嘉さん、中山さん担当編集者らを交え、総勢10名で宴会。たまたまわれわれが入った居酒屋はけっこう大きな音量でジャズをかけており、中山さんいわく「まるでいーぐるの打ち上げみたいですね」。確かに村井さん、八田さん、須藤さん、益子さんら、お花見メンバーとさして変わらない。
だが、私はというと、ずーとかかるテナーが誰だかわからず、内心落ち着かない。八田さんがズートですよと教えてくれて、ようやく酒の席に加われたのだった。本当に職業病ですね。