9月12日(土)

このところ、隔週がふつうだった「いーぐる連続講演」の講演者の方々が増え、今月は毎週行うことになる。非常にありがたく、嬉しいことだ。毎週といっても、「アフリカ」「ピアノ」「ケルト」「コール・ポーター」と、内容は多彩なので聴き手の一人である私は飽きることがない。これは来会のお客様も同様だろう。とりわけ、今日は1時から3時までは「朝日カルチャーセンター」の講座を開講したので、催しは二つだ。忙しいが充実感はある。
今期「朝カル」のテーマは「ジャズ史を作った巨人たち」ということで、5回にわたりパーカー、モンク、コルトレーン、オーネット、ドルフィーの5人を取り上げた。マイルスが欠けているのは、前期のテーマがマイルスだったから。今日はその最終回でドルフィー。大好きなミュージシャンだけに思わず多弁になり、ちょっとまとまりに欠けたかもしれない。がそこは良くしたもので、受講生の皆様の質問に答えることで、なんとか話の脈絡が繋がったように思う。
受講生の皆様は、ほんとうにジャズを聴き始めたばかりの方から、かなり詳しいのに、より深く知ろうという熱心な方まで、非常に幅が広い。最後の回が終わった後で総勢28名の参加者の皆さんに「気に入ったミュージシャン」を複数回答ありで挙げていただいた。その結果が下だが、非常に面白い。
モンク、ドルフィー : 11名
パーカー : 10名
コルトレーン : 6名
オーネット : 3名
事前の予測では、クセの強い音楽と思われているモンク、ドルフィーなどは下位だろと思っていたのが同数で1位なのである。また、マニア的なパーカーがわずかわずか1名差で2位に食い込むとは驚いた。そして知名度の高いコルトレーンが上位に来ると思ったのだが、なんと4位。まあ、やはりオーネットが最下位なのは入門講座なので当然か。
それにしてもこの結果は、われわれジャズ関係者のジャズ入門者に対する先入観を改める必要を感じさせた。ジャズに関心を持っている人は必ずしも「癒し」を求めているわけではなく、むしろ「個性の強い音楽としてのジャズ」を求めているのだ。
講座を終えると直ちに連続講演が始まる。今回は原田和典さんプロデュースによる『JAZZ PIANO』(シンコーミュージック)出版記念イヴェントとして、監修者原田さんはじめ、須藤克治さん、八田真行さん、林建紀さん、益子博之さん、そして私の各執筆者が担当アルバムから曲をかけて紹介するというもの。村井康司さんは所用のため、原田さんが村井さんの推薦曲を代わりにかけ、村井さんのコメントを代読した。
ところでこの顔ぶれ、ちょっと見覚えがありませんか。全員com-postのメンバーなのです。つまりcom-postのメンバーがそろえば、ストライド・ピアノからクレイグ・テイボーンまで、ジャズ史網羅的な解説が可能なのだ。これはかなり強力な布陣ではなかろうか。
私はジョー・ザヴィヌルの『マイ・ピープル』からサリフ・ケイタの参加している《ビモヤ》をかけ、リズムと声の快楽に浸る。他の筆者の選曲で気に入ったのは益子さんのクレイグ・テイボーン『Junk Magic』(Thirsty Ear)から《Shining Through》。怪しげな電子音が想像力をいたく刺激。面白かったのは、打ち上げの席でおおしまさんもこの曲が1番とおっしゃったことだ。音楽好きの好みはジャンルに関係ナシを実感する。
ところで『JAZZ PINO』の隠れたコンセプトとして毒にも薬にもならない「癒し系ジャズ」に対する挑戦の意味もあって、オビには「きみはレニー・トリスターノを知っているかい?」の挑発的文字が踊る。当然原田さん選定によるジャズ・ピアノ新旧定番550枚の中に、ヌルいアルバムは1枚もない。筆者の一人ながら、私も非常に優れたガイドブックだと思う。ぜひご購入を!