8月25日(土)

478回目を迎える『いーぐる連続講演』、ほとんどやり尽くしたように思えたが、まだまだ隠された鉱脈は豊富であることを今回の『サッチモ10番勝負』は思い起こさせてくれた。ジャズの生みの親とも例えられるルイ・アームストロングを正面切って取り上げたのも初めてなら、「対決企画」も新機軸。

小針さん、林さんのお二方がそれぞれサッチモ、ベストトラックを10曲選りすぐり、どちらの選曲が良かったかお客様に判定していただき、勝ったほうがギャラ総取りという対決企画、細部のルールは当日その場で決めた。まず、勝敗は拍手の多寡で決めるという行き方もあるけれど、より明確に挙手で判定することにし、また、ジャンケンで勝った方が有利な後攻。というのも、相手が出した曲目を知った上で、それよりちょっとだけいいと思われる選曲をすれば、勝ち球を有効に使えるという寸法。

たとえばの話、軍人将棋で敵がタンクを繰り出したと知れば、それに確実に勝てる少将をぶつけ、中将、大将を温存させておけば、先方が少将を出してきても殲滅できる。しかしマジメな小針さん、あらかじめ準備した選曲リストを公開し、その順序どおりにおかけになる。

おそらくはこの勝負を度外視し、解説のわかりやすさを優先した駒の繰り出し方がモンダイだったのか、勝負は実に興味深い展開となった。1回戦ごとに挙手を求め勝敗を決する勝負は6勝4敗で林さんの勝ちなのだが、挙手の累積では逆に81対66で小針さんが勝っている。

要するに小針さんは敵が少佐クラス(あんまり強くない)の弾を撃ち込んで来ても、それに勝てる中佐、大佐ではなく、豪華に中将やら大将の金星クラスを当てちゃってるということ。つまり個々の勝負で圧倒的に勝っているケースがある反面、負けは僅差という場面が相対的に多かったのである。

いささか勝敗にこだわった話になってしまったが、そこはジャズに深く通じたお二方、最初からダメな選曲などする訳が無く、当然すべてのトラックが名演であるからこその、細部論なのである。

詳しい選曲内容は後日発表するが、冒頭の数回は林さんの王道ホット5、ホット7のそれこそ将官クラスが確実に勝利を収め、途中からサッチモのもう一つの聴きどころ、ヴォーカルの名演を選りすぐった小針さんが巻き返し、その後私自身もどちらに挙手するか迷う僅差の攻防が続く展開となったのだが、結果は前述の通り。

それにしても嬉しかったのは、ルイ・アームストロング協会の会長、外山さんご夫妻はじめ、ルイのコンプリート・コレクターと言われる元レコード協会の会長、佐藤さんなど、その道の大権威の方々がお越し下されたことだった。これは元早稲田ニューオルリンズ・ジャズの青野さんのご好意によるもの。

とは言え、こうした観客はお二方にとっては相当プレッシャーであったことだろう。にもかかわらずていねいな解説をなさってくれた小針さん、そして、アーリー・ジャズ研究の成果を確実に反映させてくれた林さんの甲乙付け難い好選曲に、外山さんご夫妻、佐藤さん、青野さんといった「その道のつわもの達」もみなさん大いに楽しんでいただけたようだった。

新機軸は見事大成功と言って良いだろう。それにしても「知っている人が少ない」ということで今まであまり取り上げることのなかったバップ以前のジャズ、これからは「まずご紹介」という意味で前向きに考えよう。その第一歩として、来る10月27日の16:00より、青野さんによる『クラシック・ジャズの魅力再発見』を行います。ぜひお越しください。

最後に、バップ以前にはあまり詳しくない私ごときのささやかな感想に過ぎないが、やはりサッチモは凄い。ホット5、ホット7時代の、空気を切り裂くような強烈かつ味わいのあるトランペット(コルネット)の迫力サウンドにはいささかの懐かしさもなく、ただただジャズの原点の凄みが実感されたのだった。