1月19日(土)

岡本郁生さんとは最近お近づきになったのだが、今日の連続講演、たいへん面白いものだった。岡本さんと同じく、ジャズからラテンまで幅広い音楽的バックグラウンドを持つ伊藤嘉章さんの巧みな司会進行ぶりもあり、1968年という歴史の節目に、いったい世界ではどんな音楽が流れていたのかという今回の企画、見事にツボに嵌った。

冒頭、おそらくベトナム戦争と思われる記録映像が流れ、「なぜ1968年か?」という今回の企画を伝えるべくJoe Bataanの《Riot!》すなわち「暴動」がかかる。確かに1968年にはパリの学生騒乱やアメリカ各地の暴動など、西欧先進諸国では「時代の節目」を予感させる事件が頻発した。日本でも翌1969年の東大紛争など、同時多発的に社会を揺るがせる騒動が起こったものだった。

1967年、20歳のときジャズ喫茶を開業した私自身、その渦中でさまざまな出来事を体験した。しかし、渦中の人間にはわからなかったものが、今回うっすらとではあるけれど見えてきたように思う。時間の推移と「他人の眼」がそれを可能としたのだ。私よりほぼ一世代違う岡本さんと伊藤さんの「音楽を切り取る眼差し」は、当然私とは違う。それがいいのだ。

続いて「が、一般的に1968年といえば!」というくくりでThe 5 th Dimension の「ヘアー」から《Aquaerius 〜 Let The Sunshin In》が。この曲は同世代なら誰しもが一度は耳にしたはず。特に私は日本版『ヘアー』に友人が出演し、その後共演者と「駆け落ち事件」を起こしたりしたこともあり、特に印象深い。

そして「そんな年にジャズ界では・・・」Miles Davisは『Filles de Kirimanjaro』を録音。当然これは「いーぐる」でもよくかかり、懐かしい。「サンフランシスコのフィルモアで、いろんなことが起こっていた!」というテーマで紹介された『The Live Adventures of Mike Bloomfield and Al Kooper』は、初めてサンフランシスコに行った時購入した思い出深いアルバム。

以下、ゴールデンカップスから青江三奈まで、ほんとうに当時よく耳にした音たちと同時に、「ファニア・オール・スターズ」の旗揚げ公演のライヴなど、ラテン界の新しい動きが紹介される。このように横断的に聴いたのは今回初めての体験で、それこそうっすらとではあるけれど「1968年辺りに何かが起こっていた」ことが音楽の上にも現れているように思える。

少々毛色の変わった企画であるにもかかわらずお客様の入りも悪くなく、これは成功。良い講演のあとの打ち上げは当然話題も弾み、これまた最近お近づきとなったアオラ・コーポレーションの高橋さんらと楽しく音楽談義。ジャンルこそ違え、ほんとうの音楽好き同士ならではの気持ちよいひと時が過ぎる。

酒席で岡本さんが冗談で「オーディション、合格ですか?」とおっしゃったが、合格も何も、その道を極めた方たちのお話、面白くないわけがない。当然のごとく次回の企画をお願いする。

先日の中平さんと佐藤さんのイヴェントといい、先週の原田さんと大塚さんの「対決」といい、そして、昨年末の渋谷Li-Poにおける関口義人さん主催の『音楽夜噺』忘年会もまた、「音楽好き」同士の楽しい一夜であった。こうしたすばらしい方々とお付き合いさせていただいて、まことに幸せである。