6月21日(土)

佐藤由美さんは、以前花田さんプロデュースによる濱瀬さんの「ミナス派特集」の際紹介されたが、ほとんど初対面。しかし今回のサンバ特集、その道の第一人者ならではの詳しい解説と優れた選曲でほんとうに素晴らしかった。何より、それまで通り一遍の知識しかなかった私が、いっぺんでサンバファンになってしまったのだから・・・

シロートなりにサンバの聴き所を分析すると、独特なサンバのリズムが生み出すジャズとは違う躍動感に乗って、それぞれ個性的なヴォーカリストが声の魅力で聴かせどころを用意しているところだろうか。また、個人的にはバックに付けられたコーラス隊も、他の音楽ジャンルとは違う気分を盛り上げている。

しかしなんと言っても、サンバならではの不思議な気分というか情緒感が気に入った。「サウダージ」と言うのだろうか、一種気だるげで哀感がこもった独自の世界。しかしこの「気分」について、アオラ・コーポレーションの高橋さんが実に面白い解釈を展開してくれたのである。

ご存知のように、高橋さんはキューバ音楽をはじめとするラテン・ミュージックの世界では広く知られた方。このところいろいろなところで奥様ともどもお目にかかり、ラテン・ミュージックの講演をお願いしているところ。

それはさておき、高橋さんは「カリブ系の音楽(人間も)は明るく振舞うが、実はネクラ。他方、ブラジル音楽(人間も)は“サウダージ”などと言って、ちょっと斜に構えて見せるけど、実はノーテンキ」というもの。それが的を射ているのかどうか、どちらの国にも行ったことがないのでなんとも言えないけれど、音楽から受ける印象は当たっているように思った。実に深い。

肝心の講演だが、佐藤さんのちょっと伝法でおきゃんなキャラクターから飛び出す解説が実に興味深く、リアル。また、その相方を務める「バランサ」のDENさんは、何度もブラジルを訪れ本場サンビスタとの交流が深く、リオの名門チーム“マンゲーラ”のパレードで日本人初、“バゴーヂ・アーティスト”の山車に乗るという快挙を成したミュージシャンだけに、いろいろと面白い裏話が聞けた。

ちなみに「バゴーヂ」というのは新しいサンバの潮流で、女性シンガー、ベッチ・カルヴァーリョやアルミネート・ギネトといったミュージシャンたちによって始まったそうだ。個人的に気に入った音源をいくつか挙げると、「黒真珠」と言われた女性シンガー、ジョヴェリーナのSorriso aberto (Guara), フンド・ヂ・キンタルというグループのDoce refugio (Luiz Carlos da Villa), ゼカ・バゴヂーニョのSamba pras mocas (Roque Ferreira, Graziella) といったところ。

しかしなんといっても楽しかったのは、打ち上げの席でラテン界の有名人、マンボラマ幹事長、岡本郁生さんやモフォンゴこと伊藤ちゃん、そして高橋さん、佐藤さん、DENさんらの「深すぎる」ラテン・ミュージック界の話を間近で聞けたこと。これは何ごとにも換えがたい。

ともあれ、佐藤さんには今後もラテン世界の講演を継続してお願いすることとなりました。大いに楽しみ。また、今回の企画のプロデューサー、花田さんは音楽雑誌「ラティーナ」に戻ったそうだが、前回の濱瀬さんのミナス特集といい、今回のサンバ特集といい、実に優れた企画を立ち上げてくれました。今後もよろしくです。