12月12日(土曜日) 【2015年ベスト盤大会】

今年のベスト盤大会は近年まれに見るほど充実していたと思う。そう思った理由は二つほどある。まず皆様方のお持ちになったアルバムがどれも聴き応えがあったという当然の理由。二つめは、ジャズについてジャズ関係者の方々の評価の方向というか、考え方のバラつきが少なくなったように感じたことがある。

ここ数年、他の方が選ばれたアルバムがミュージシャン名を含め、まったく知らないものであるケースが多々あったのだが、今年はかなり自分が購入したアルバム、つまり私も評価した作品が選ばれていたのだ。

ここ2年ほどはユニバーサルさん、ディスク・ユニオンさんが共同主催する新譜紹介イヴェント「New Arrivals」で新譜を購入することが多いのだが、その際私がこれはいいと思って選んだものが、まさにディスク・ユニオン関係者お三方、羽根さん、西川さん、そして中島さんのおかけになったアルバムなのには少々驚いた。

また前記お三方のセレクト以外でも、柳樂さんや山中さん、原田さん村井さんらのご持参アルバムは、私もユニオンさんから「これは」と思って購入したものだ。こんなことは今までなかった。また、林さんが選ばれたホセのアルバムなどは、最新刊『厳選500ジャズ喫茶の名盤』でも取り上げさせていただいたもの。そういう意味では、もう少し早くリリースされ原稿の締め切りに間にあっていたら、村井さんの選ばれた挟間さんの作品なども、当然拙著「ビッグ・バンド」のコーナーで取り上げていたと思う。

加えて、まったく知らないアルバムにも実に面白いものが多かった。新進音楽評論家、花木さんのアルバムや八田さん、吉田さんらのセレクトした作品はどれもかなりユニーだが、面白く、また力があった。そして岡本さん伊藤さん、高橋さんご夫妻らラテンチームの選ばれたアルバムも、それぞれ楽しめるものだった。

こうした現象はまずもって「ジャズ復興」の兆しと考えていいだろう。ここ数年みなさんのお選びになったアルバムが極めてバラバラな印象を与えたのは、やはり「これ」という作品が少ないため「やむをえず趣味的に」選んだ結果だったのではないだろうか。

こうした意見は私だけではなく、参加者の多くの方々が「今年は豊作」あるいは「いいものが多く、どれを選ぶか迷った」とおっしゃっていたことからも、まず間違いないと言っていいと思う。この傾向は確実に今後も引き継がれていくだろう。

一例を挙げれば、先日ブルーノート東京で開かれた上原ひろみの新譜紹介イヴェントが極めて素晴らしく、彼女の演奏からは「ジャズをやるうれしさ」がガンガン伝わって来た。面白いもので、司会をやっているユニバーサル斉藤さんの表情も実に明るく、新譜に対する自信と愛着の思いが素直に伝わってきて、これも実に良い傾向。ともあれ、来年のジャズシーンが大いに楽しみだ。私のライヴ・スケジュールも、1月のマーク・ジュリアナ、2月のローガン・リチャードソンと、早くも二つ決まっている。

話をベスト盤大会に戻すと、新譜の出来の良さもあってその後の打ち上げ兼忘年会もたいへん盛況。例年より参会者も多くあちこちで音楽を肴に話が盛り上がっていたが、興味深かったのはジャズ・ミュージシャンで音楽評論家の大谷さんと、com-post同人、ハッカー八田さんの会話。

大谷さんが現在のジャズ・シーンをモダン以降としてではなく、スイング期(プレ・モダン)の延長で捉えなおしてみるというアイデアを開陳し、それに八田さんが同意するという実に面白そうな内容。この話題、酒席の雑談で終わらせてはもったいないと思い、お二方に「いーぐる」での公開対談をお願いした。お二方、いずれスケジュール調整いたしましょうね。



12月19日(土曜日) 【Album Listening Session Vol3 NasIllmatic』】

原雅明さん主催の、かつての名盤をアナログで1枚じっくりと聴くイヴェント、今日は早くも3回目。私はクラブ・ミュージックやヒップホップには疎く、しかし興味はあるので毎回この企画は楽しみにしている。やはり面白いもので「門前の小僧」ではないけれど、少しずつこのジャンルの聴きどころが見えてきたような気がする。

私も含めたジャズファンにとってこのジャンルの一番の「敷居」は、例のラップというやつ。ことばが良く聴き取れず、そのせいもあるけれど「どれもみな同じ」ように聴こえちゃうのだ。しかしよく考えてみれば、ハードバップだってジャズ入門者はみな同じと言うじゃないですか(笑)。

ともあれ、3回目ともなると少し余裕も出てき、ラップの背後のサウンドにも注意が向く。するとこれがけっこう面白く聴き応えがあるのだ。もちろんズブの素人だからどこがどうとは言えないのだけれど、やはりこのジャンルならではの気持ち良いグルーヴが感じられるようになった。

しかしプロの聴き方は違うなあと感心させられたのは、アズーロさんとDJ.Jinさんの問答。細かな技術的なことはわからなかったが、それでもDJが1枚のアルバムからどの部分をどうサンプリングし、またどう使うか如何に気を使っているかということは実によくわかった。

一部にDJは「ありもの」を繋いでいるだけじゃないかという批判があるようだが、これは私などが考えても明らかなカン違いだろう。そういう人は「創作」ということを極めて狭く捉えているのだと思う。レコードからサンプリングしたとしても、その組み合わせ使い方次第で、新たな創作物が出来上がることは当然有りうると思う。

また、単に曲を繋ぐだけの行為でも、その「繋ぎ方次第」で聴き手を心地良くさせられるとしたら、それもまた一種の創造行為で、そういう意味では、ジャズ喫茶レコード係りは元祖DJであるという自負はある。それやこれやで私はDJのみなさんに対しては、勝手に「同業者」だと思っているのですね。

それはそうと、今回採り上げたアルバム『Illmatic』を作ったNasという人が、オル・ダラの息子だとは知らなかった。オル・ダラはジェームス・ブラッド・ウルマーの名盤『Are You Glad To Be In America?』(Rough Trade)などで知っていたけれど、改めて彼のリーダー作『Neighborghhoods』(Atlantic)を取り出して聴いてみたら、これがかなりいいのだ。再発見。

また、Jinさんが『Illmatic』の「元ねた」を披露してくれたが、なんとアーマッド・ジャマルの『The Awakening』(Impulse)やヒース・ブラザースの『Marchiong On!』(Strata-East)など、当店にもあるアルバムなのには驚いた。ぜーんぜんわかりませんでした。

打ち上げ後の2次会は、柳樂さんと新装開店の渋谷Li-Poへ。前の店のすぐ近くのビルの4階で、以前よりかなり広くなり、内装も伊藤さんらしい「シンプルおしゃれ」でたいへん素敵な空間。大いに気に入りました。ワインも美味しかったし! それにしても柳樂さんの人脈の広さには驚かされる。やはりこの「音楽に対する好奇心」の強さが、近年の柳樂さんの活躍の原動力なのだろう。これもまたジャズ・シーン活性化に一役買っていますね。