10月15日(土)

今日は松平維秋さんの13回忌だという。もちろん私は彼のことをそれほどよく知っているわけではない。以前CDジャーナルから出たムック『渋谷百軒店ブラック・ホーク伝説』や、今読んでいる浜野サトルさんのブログ『ブラック・ホーク知らずのブラック・ホーク語り』などで「ああ、そうだったのか」といろいろ40年以上昔のことを思い出しているに過ぎない。

とは言え、私にとって『ブラック・ホーク』や松平さんは、まったく「伝説」としてだけのものでもない。数度ではあるけれど、ジャズ喫茶の客とレコード係りという関係にしろ、ことばを交わしたこともあるし、彼の独特の佇まいもしっかりと脳裏に刻み込まれている。

誤解される方もいると思うので説明しておくと、客は私で、松平さんはジャズ喫茶『ブラック・ホーク』のレコード係り。私は高校生の頃、まだ『DIG』渋谷支店だった頃からこの店には通っている。そうした思い出話がきっかけで今日、いーぐるでおおしまゆたかさんに『ブラック・ホークの99選』という講演をお願いしたのである。

素晴らしい講演だった。おおしまさんを含めたかつての『ブラック・ホーク』の常連さんと思しき方々、そしてまさに「伝説」としてしか『ブラック・ホーク』のことを知らないお客様方から、暖かいお褒めの言葉を数多くいただいた。それはもちろんおおしまさんの選曲であり、実にわかりやすく的を射た解説に対するものであったが、当店の音響装置で聴くアナログ盤の音への評価も少なからずあったのである。

個人的感想を言うと、ロックとひとことで言っても、実に多様な世界があるのだなあ、という感慨と、とは言え、研ぎ澄まされた感性によって選び抜かれた音たちには、好みを超えた説得力があるという事実を、改めて確認できた喜びが大きかった。それは松平さんの世界であると同時に、おおしまさんの美意識によって再解釈された松平ワールドでもある。

以前から公言しているように、私は「黒い」音楽に惹かれるタイプで、そうした嗜好からは「白い」というか、今回の講演ではじめて知ったのだが、意図的に「黒い」音楽を排除していたという松平セレクションの相性は良いはずが無いのだが、にもかかわらず、相当数のトラックに「お好みマーク」が付いたのはわれながら意外だった。

いくつかご紹介してみよう。


Albion Country Band, BATTLE OF THE FIELD, Morris medley
Guy Clark, OLD NO.1, She ain’t goin’ nowhere
Sandy Denny, THE NORTH STAR GRASSMAN AND THE RAVENS, John The Gun
Mark Ellington, RAINS / REINS OF CHANGE, Oh no it can’t be so
Donnie Fritts, PRONE TO LEAN, Whatcha gonna do
Jack The Lad, THE OLD STRAIGHT TRACK, Jolly begger
A. L. Lloyd, LEVIATHAN, Paddy and the whale
Gay & Terry Woods, BACKWOODS, The hymn
雪村いずみ, スーパー・ジェネレイション, 銀座カンカン娘


それにしても多いなあ。専門外なので「どういいのか」うまく説明出来ないのだけど、中でも驚いた雪村いずみを例にしてみると(彼女ならみなさんご存知のことと思うし…)とにかく声の力である。それはリズムへのノリ方でもあり、声自体が持つ音色というか表情の魅力だ。知っているはずの歌手がこんなに凄かったのかと今更ながら驚かされた。そしてこういうものを知っている方々への素直なリスペクトの感情が起こったのである。

音楽には、私が知らない魅力的なものがまだまだあることを知らされた。