8月29日(土)

おおしまゆたかさんによる「イスラームの音楽」、たいへんに素晴らしかった。「いーぐる連続講演」は基本的に講演者の方々の希望に沿ってプログラムを組んでいるのだが、今回は特別にこちらからのリクエスト。

理由はいろいろあって、まずジャズのルーツを探るにあたって、ラテン・ミュージックの影響が思いのほか大きいと言うことがある。そのまたラテンのルーツまでさかのぼると、スペインが一時期イスラームの勢力圏に入っていたことから、そちら方面にまで関心が向かったということが理由のひとつ。

とは言えイスラームのスペイン征服ははるか昔のことで、それが直接ジャズにまで影響を及ぼしているとは思えないが、それでもジャズをめぐる「世界音楽」の全体像をおぼろげながらでも思い描こうとすれば、やはりイスラーム圏の音楽は外せない。もっともそうした私の目論見がけっこう的を射ていたと知ったのは、おおしまさんの講演のあと。どうやらほとんどの楽器の原型はイラン、つまり昔のペルシャ帝国にあるという。

もうひとつの理由はもっと単純で、かつてこの地域の音楽をつまみ食い的にだけど聴いてきて、けっこう気に入っていたということがある。たとえば、今回のハイライト、Faiz Ali Faiz & Titi Robin 《Ya Ali》など(これはほんとうに凄い)は私も昔、彼の師にあたるヌスラットのCDを愛聴していたというような事情があるのだ(ライヴにも行きました)。

講演はアザーンで始まったが、これがとんでもないもの。一応音楽ではないことになっているようだが、彼らの声の力は凄まじく、こぶしを利かせた声の張り、抑揚など第一級の歌手といって間違いない。その説得力たるや圧倒的で、これを聴いたらちょっとグラっときますね(しかしトンカツ食べられなくなると知って、思いとどまる。ちなみに、当日の打ち上げはワインに子牛のカツレツ)。なんと言っても「信じている人間のつよさ、確かさ」が歌の力になっているのは間違いないようだ。「宗教音楽」と言ってもいいだろう、この「大衆音楽」の対極にあるような音楽の力を改めて実感しました。

他にもエジプトの女性歌手Asmahanはじめ、ディヴァン・サズによるアブダル族の音楽とか、ロス在住のイラン伝統音楽奏者Mamak Khadem 《Bisotoon》だとか、アフガニスタンのMahwash 《Del E Na Sukhte》など、まだ知らない心に響く音楽がいくらでもあることに驚く。おおしまさん、ほんとうにありがとうございました。

というわけで当然このシリーズは続編ありということになりました。こちらは勝手にリクエストするだけだけど、講演するおおしまさんはたいへんなことだと思います。でも、おおしまさんのごくろうは新たな音楽ファンを増やすことに圧倒的な貢献をされていると思うのです。

いい音楽を紹介しあうという音楽友達のありがたさを、今回ほど実感した講演はありませんでした。(早朝、アザーンに耳を傾けながらながらこれを書いています)おおしまさん、今後もよろしく!