4月12日(土)

佐藤英輔さんは1958年生まれ、どういうわけかこの年は村井康司さんはじめ優れた音楽評論家が輩出している。ちょうど私より一世代下のこの方々からは教えられることが多い。特に英輔さんは私などが疎いロック、ファンク、ブルースなどジャズ隣接ジャンルをよく知っているので、実にありがたい存在である。

今回の講演は「ジャズの鬼っ子楽器、ギター」に焦点を当てた非常に興味深いもので、ジェームス・ブラッド・ウルマー始めソニー・シャーロック、ピート・コージー、レジー・ルーカスなど、「異色」ギタリストの動きをていねいに追いつつ、現代に至る「ジャズ・シーンの混迷」に迫ろうという画期的試み。

今回は「前半戦」ということでおよそ80年代までの動きを追い、次回90年代編で結論を出そうというもの。前半とは言え収穫は大きく、私などにとって盲点となっていた部分に光が当てられた思いだ。

従来私がジャズ・シーンについて考えていたのは、まず大きな柱としてのマイルス、その周辺から現れたザヴィヌルの動き、そして彼らと対抗するようなスタンスのオーネットというおおざっぱな見取り図があったが、そこに「ギター」という楽器にスポットを当てる眼差しを導入したことで、シーンを大きく横刺しにするような視点が生まれたのだ。

まだ前半なので結論めいたものは控えるけれど、音を聴いているだけでも実に面白い。そして英輔さんの語り口が絶妙。ちょっとココには書けない、あまりにもな「たとえ」でジャズにおけるギターの存在を語る英輔さんは、チョーカッコいいです。

しかしその言い分はじつにまっとうで、同じブラック・ミュージックでも、ブルースやR&Bでは何の問題も無く使われているギターが、ジャズでは妙に「控えめ」な導入に終始していたが、ある時点からマイルスもオーネットも極めて積極的にこの楽器をメンバーに組み込んだのはなぜか? という、けっこう根本的な疑問を、ある意味実にわかりやすい「たとえ」で解説する手法は見事。単にジャズだけでなく、ロック、ブルース、ファンクなども聴いている英輔さんだからこその力ワザ。次回の展開が大いに楽しみである。

太っ腹英輔さん、気に入ったアルバムを貸してくれるということで、さっそく私がリクエストしたのはThis Is Howlin’ Wolf Albun(Chess)とMG / Pass Me By(Rhythm Attack)。また、嬉しいことに、大昔から欲しかったけど高価で買えなかったフランシス・ポードラによるチャーリー・パーカー写真集を英輔さんからいただいてしまった。太っ腹極まれり!

貴重かつ、見るだけで「あの素敵な時代」にタイムトリップできる素敵な写真集です。ぜひ多くのジャズファンの方々にもご覧いただきたく思い「いーぐる」に置いてあります。ちょっと重いけど、遠慮なく手に取ってみてください。