2月20日(土)

現役最長老ジャズ評論家、瀬川昌久さんの講演は素晴らしいものだった。なにしろ戦後間もない頃アメリカに渡り、あのチャーリー・パーカーやら、デューク・エリントンなどをナマでご覧になった体験の重さは尋常ではない。何気ないひとことが実に貴重。たとえば、当時新譜だったパーカーのストリングスものやラテン・ナンバーのレコードが街中でかかっていたというではないか。こうしたリアルな状況は実際に現地に行ってみなければわからないことだ。

とにかく瀬川さんとお話を聞いていると、心底ジャズが好きだということがことばの端々から伝わってくる。ジャーナリストとして取材するのではなく、ほんとうにジャズが好きで、忙しい仕事の合間を縫ってジャズクラブ巡りをされた方ならではの体験は、聞いているだけで心弾む。ニューヨークの街を歩いていたらガレスピーの一行に出会い、彼の口利きでジャズクラブにタダで入っちゃったエピソードなど、うらやましくも楽しい限り。

今回の講演は、先ごろ上梓された大著『瀬川昌久自選著作集』(河出書房新社)の刊行記念を兼ねたもので、50年代初頭と後半の2回、銀行のお仕事でニューヨークに派遣されたときのジャズ体験を中心に、村井康司さんが司会、聞き手となってお話を聞くという構成。そして、話題に出てくるパーカーなど当時のジャズマンのSPレコードを、池上信次さん持参の機械式蓄音機で聴くという趣向。それにしてもSPサウンドのナマナマしさにはいまさらながら驚いた。

瀬川さんはビッグバンド・ファンでもあり、多くの学生ビッグバンドの面倒を見られてもいらっしゃるが、彼らビッグバンド・メンバーは意外にジャズを聴かなかったりする風潮があるようで、彼らをジャズファンに仕立てれば一挙にジャズ人口が増えるのに・・・などと言う話題も打ち上げの席で出た。それにしても、今話題の挟間美帆を早くから応援していたことなど、瀬川さんの先見の明は素晴らしい。

また、今回の大著発刊のきっかけとなったのが、柳樂光隆さんがわざわざ国会図書館から瀬川さんの大昔の記事をコピーして差し上げたことだと聞いて、柳樂さんのプロデューサーとしての功績を大いに実感したものだった。この著作が、忘れられつつある昔のジャズシーンと現代ジャズを結び付ける一助となることだろう。

瀬川さんの講演は今後も継続して「いーぐる」で行われることが決定しましたので、内容、日程が決まり次第、告知いたします。ご期待ください。