『100年のジャズを聴く』

本日11月16日、村井康司さん、柳楽光隆さんとの鼎談集『100年のジャズを聴く』がシンコーミュージックから刊行されました。この本は今年の春ごろ、去る11月11日に行われた「いーぐる50周年記念パーティ」に向けて刊行する予定で企画されました。発案者は私で、明確な企画意図のもとに計画されたものです。

目的の第一は「ジャズ100年」を迎えた今、ジャズシーンが非常に活性化し面白くなっていることを広く伝えることにあります。それと同時に、現代ジャズが従来のジャズとは表面的にずいぶん異なっていること、それゆえハードバップ新主流派辺りを愛聴する伝統的なジャズファンからは若干「色眼鏡」で見られている現状を打ち破ろうという、明確な意志も含んでいます。

この目的を果たすためまず考えたのは、現代ジャズシーンの現況を一番よく知っている柳楽さんを迎えることでした。そしてそれと同時に、既に名著としての評価を得つつある『あなたの聴き方を変えるジャズ史』(シンコーミュージック)の著者、村井さんを交え、「ジャズ100年史」の中における「現代ジャズ」の位置付けをわかりやすく解説してもらうことでした。

私自身の役割は、レコード(CD)に記録された「ジャズ100年」の半分に当たる50年に渡ってジャズ喫茶でジャズの新譜に接して来たという視点から、現代ジャズの面白さ、そしてその特殊性をお二方と語り合うことで浮き彫りにしようというものでした。

この目的はほぼ達成されたと思います。まず柳楽さんによる、ミュージシャンから直接聞いたジャズシーンの現況が詳しく語られていること、そしてそれについて、村井さんからジャズ史的観点からの適切な解説を加えていただいたことによって、私の「耳からだけの」ジャズ体験に適切な知識、パースティクティヴが与えられたのです。これはおそらく多くのジャズファン、音楽ファンにとっても同じではないかと思います。

付け加えれば、30代、50代、70代というかけ離れた鼎談者の、それぞれ異なった実に広範な「ジャズ体験」をうまく鼎談集の形に纏められたのは、執筆および編集作業に私の最初の著書『ジャズ・オブ・パラダイス』の編集者、富永虔一郎さん、『ジャズ・ヴォーカル・コレクション』の編集者であるベテランジャズ編集者、池上信次さん、若手評論家、本間翔悟さん、細田成嗣さんらが加わってくれたからです。みなさま方には、この場を借りてあつく御礼申し上げます。

以上が『100年のジャズを聴く』の表テーマですが、私自身は次のような「裏テーマ」も考えていました。それはJTNCと略称され若い読者層の圧倒的支持を得ている柳楽さん監修の『ジャズ・ザ・ニュー・チャプター』(シンコーミュージック)の読者層、村井さんの新著『あなたの聴き方を変えるジャズ史』の購読者、そして現在私が監修している小学館刊行のCD付隔週刊マガジン『ジャズ・ヴォーカル・コレクション』の購入者のみなさま方をフュージョンさせることです。

私見ですが、柳楽さんの読者層と村井さんの読者層はかなり重なっていると思えます。しかし、現在私が監修している小学館のシリーズはジャズ入門者が大半を占めており、柳楽さんの読者層とはあまり重なってはいないと思います。ただ、そこに私の近著『一生モノのジャズ名盤500』(小学館101新書)『厳選500ジャズ喫茶の名盤』(小学館新書)を挟んでみると、村井さんの読者層との重なりはある程度見込め、また、柳楽さんのファン層とも辛うじて繋がる部分もあるかと思うのです。

私にはちょっと残念な思いがあるのです。それは鼎談でも語られていますが、80年代イギリス発祥のクラブジャズやヒップホップ・シーンの現況が、当時のジャズファンにはうまく届いていなかったことです。これはひとえにジャズファンの閉鎖性・保守性に問題が有ると睨んでいます。

そこで「ジャズ100年」を迎えた今、前車の轍を踏まないため、ジャズファンの意識改革も目指したいのですね。若く斬新な感覚を持つ柳楽ファン、音楽全体に幅広い興味を持った村井ファン、そして伝統的なジャズファンと入門ファンが主たる私の著書の購読層を意図的に混ぜることで、現代ジャズの多様性・革新性への理解・馴染を良くしたいのです。

最後に私自身の読後感ですが、一番トクしたのは私ですね。というのも、お二方のお話に接することで、私のジャズ観は大幅に広がったのですから…

早くも素晴らしい書評を書いてくれたおおしまゆたかさんの明晰なご指摘の通り、「パーカー・マイルス・コルトレーン」と連なる従来からの「ジャズの正史」が、柳楽さん、村井さんの知識・見識によって、見事に書き換えられているのです! もしかしたら、このことがこの鼎談集の第一の成果かもしれません。

どう書き換えられたかは、本著を手に取り、ご自身の眼でお確かめを!