【東京・四谷 いーぐる ジャズ喫茶物語】

 

人気ジャズサイト「ジャズ喫茶案内」さんが「東京・四谷 いーぐる ジャズ喫茶物語」という長大な記事を書いてくれました。実に濃密かつ正確な内容で、書かれた当人が驚いています。何よりも凄いのは、当時の資料をもとに半世紀近くも前の「ディスクチャート」周辺の人間関係が極めて正確に掘り起こされているところですね。

 

ネット上での反応もこの部分に関するものが多く、高橋健太郎さんや柳楽光隆さんなどが好意的な感想を述べてくれ、また、「日本ポピュラー・ミュージック史の貴重な記録」などという記述も眼にしました。中学校からの友人日野原幼紀と、今も付き合いがある矢野誠さんが高校の頃バンドを組んでいたなどと言う話は、私もこの記事で初めて知りました。

 

今までも当店の紹介記事はいろいろありましたが、「いーぐる」の原点に幻のロック喫茶「ディスクチャート」があったという視点での内容は今回が初めて。私自身、言われてみれば「なるほどそうだったのか」といろいろと思い当たる節があり、大いに感心している次第です。

 

詳しくは記事を参照していただきたいのですが、個人的に面白かったのは今回発売される私の新著『一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)の中に、ジョニ・ミッチェルドナルド・フェイゲンスティーリー・ダンといった普通のジャズ・ヴォーカル本には出てこないようなミュージシャンが多数登場するのですが、実はこうしたミュージシャンのアルバムは「ディスクチャート」の有能なレコード係、長門芳郎さんが購入していたのですね。これもこの記事での発見でした。

 

付け加えれば「ディスクチャート」の仕掛け人、日野原贔屓のビートルズ人脈も、ポール、リンゴのジャズ・ヴォーカル・アルバムが今回の新著に収録されており、これがまたいいのですね。

 

つまり今回の新著で改めてヴォーカルに注目してみたところ、図らずも半世紀も昔の埋もれていたロック周辺の記憶が蘇ったという次第なのです。

 

他の反応としては、友人、村井康司さんから「いーぐるは60~70年代文化の結節点だった」という過大なお言葉をいただきましたが、この時代のジャズ喫茶は大なり小なり「文化の結節点」だったのだと思います。ただ「芥正彦、阿部薫間章の話も別にあり」というくだりに注目すれば、確かにうちはちょっと異質だったのかもしれませんが…

 

言ってみれば、「ディスクチャート」周辺の人脈によるシュガー・ベイブ誕生の物語があたかもアメリカ西海岸文化を思わせる「いーぐる」の明るい歴史だとすれば、「東大全共闘vs三島由紀夫」に登場する劇団駒場主宰、芥氏周辺人脈は、掘り起こせば「三百人劇場放火事件」などという禍々しい人物も登場する、それこそ「いーぐる黒歴史」なのかもしれません。

 

もう一つありがたい反応は、村井さん、柳楽光隆さんらと作った『100年のジャズを聴く』(シンコーミュージック)で有能なエディターぶりを発揮してくれた若手評論家、細田成嗣さんが、「ジャズ喫茶は可能な限り、幅広い客層の要望に応えなければならない」という私の考えを、的確にこの記事から読み取ってくれたことです。

 

こうした基本姿勢はジャズ喫茶経営は言うまでも無く、今回の新著『一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』でも私が心掛けたことでした。

 

ともあれ、今回の労作記事を書き上げてくれたJAZZCITY代表、楠瀬克昌さんには感謝のことばしかありません。彼、ほんとうに日本のジャズ喫茶文化を大切にしてくれているのです。