8月1日(金)

いーぐる掲示板上でのやり取りについて、林さんが非常に的確な指摘をされていたので、屋上屋を架す趣もあるが、一応私見を述べておく。質問者は曲の構造を知らないでジャズを聴くこと、あるいは書くことを問題にしているようだが、それには条件がつくと思う。知らないことが演奏の理解の妨げになる場合。同じく、書くことにおいて欠落が生じる場合は、知らないことはやはりよくないだろう。しかし、そうでなければ特に問題にするには当たらないと思う。
think23にも書いたが、楽曲の構造を含む音楽理論一般の理解は、演奏者にとっては欠かすことが出来ない。しかし、聴き手にとってそれらを知る必要性は条件付となる。たとえば、ジャズは、クラシックのような原曲の再現より、即興性を軸とした個人表現や、演奏の生々しさを重要な表現原理とする音楽である、というような、ごく基本的なジャズに対する理解はあったほうがよいだろう。
また、もう少し細かなことを言えば、ビバップ以降の即興がコード進行に基づくものであることや、ジャズ初心者が最初に触れることの多いハードバップ演奏が、おおむね、テーマ・アドリブ・テーマという3部構成になっていることも、知っていた方がこの手の音楽に親しむ早道だ。
しかし、それ以上の詳しいコード理論やモードに対する理解は、不必要とまでは言わないが、知らなければジャズがわからない、楽しめないということはないと思う。それは自分の体験に即しても実感できる。私はそれら詳細なジャズ理論に対する興味も無ければ理解も無いが、それによって、それらの音楽理論を熟知している人よりジャズの理解、あるいはジャズの楽しみ方において劣っていると感じたことは無い。
あえてこのようなことを書くのは、あたかもジャズ理論を知らなくてはジャズがわからないぞというような言説が、これからジャズに親しもうとする人たちに不必要な抵抗感を与えることに対する恐れがある。
また、書き手の立場から言えば、これからジャズを聴こうとする人たちに「ジャズ理論のコトバ」でジャズを説明しようとすることの不合理さだ。これは日本語しか理解できない人相手に英語で解説するようなもので、肝心の本題に入る前に、まず英語を覚えてくださいと言っているようなものである。